30 ミーンミアSIDE(その3)
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ロフェイがわたしの隣に並んで座る。肩を優しく引き寄せてきた。彼の笑顔はすぐそこだった。
鼻で笑う三人組。
「奇特な人」
「どーしょもない破廉恥男っ」
「底辺男とメス獣人。ある意味、最高にお似合いね」
ロフェイはまったく気にしていないようすだった。でも、きっと心の中では恥ずかしい思いをしているに違いない。申しわけない思いでいっぱいだった。
店のテラスの前で、数人の通行人が足を止めた。
「あっ、すげえ! あそこにいる男、有名人だぜ。チャンピオンなんだ」
「チャンピオン? って、なんのだよ」
「町の冒険者ギルドが主催する大会のことに決まってるじゃん」
「それなら知ってるぞ。腕自慢の冒険者同士が戦うやつだろ」
「そうそう。毎回、他の町からも参加に来るっていう大きな大会だ」
聞き耳を立てていたのは、店内の客たち。
ボソボソと話し声が聞こえてきた。
「ねえ、聞いた? 有名人、チャンピオンだって」
「すごーい。あの人が? 大きな大会があったというのは知ってたけど」
「サインもらっちゃおうかな。顔もちょっとタイプだし」
例の三人組がロフェイに怪訝そうな眼差しを送る。
「チャンピオンって本当かしら」
「ううん、ありえないっ」
「でも皆、あんなこと言ってるけど……」
三人組の一人が何かを思いだしたようだ。
「ねえ。あんたのカレシも、冒険者の大会に出たんじゃなかった?」
「そうそう言ってたわよね。しかも優勝候補だったとか……。あの男がチャンピオンってことは、あんたのカレシ、優勝できなかったの?」
二人の視線が一人に注がれる。
「不正があったらしいの! 対戦相手の仲間が観客に紛れ込んで、席からこっそり魔法を放ってきたって。あたしのカレシはそう主張してるわ!!」
「じゃあ、いまここに呼んできたらいいじゃない。あの生意気なカップルをちょっと懲らしめてもらいたいわ」
「ええ、そうね。いま呼んでくる。彼のアパート、すぐそこだから」
しばらくして彼女が戻ってきた。
「あたしのカレシよ。大会の優勝候補筆頭だったんだから。普通にやってれば全試合が楽勝だったの」
わたしは呆気にとられてしまった。不正がどうのという話よりも、彼女の連れてきた男のことだ。その顔にはっきりと見覚えがあった。
彼は例の『メガファイヤを放つ男』だった。
しかも出場したのは熟練者戦ではなく新人戦。準々決勝でロフェイのファイヤを受け、病院に搬送された男。すっかり元気になったようだ。
彼女がわたしたちを指差す。
「生意気なカップルっていうのは、あそこに座ってるヤツらよ」
「どーれ。顔を見てやろうじゃないか」
途端に男の顔が青ざめた。
彼女がカレシの袖を引っ張る。
「早く懲らしめてやって」
「ちょ、ちょっと待て」
首をかしげる。
「どうしたの? あそこにいるのって本当にチャンピオン? でもあなたは優勝候補の筆頭で、不正がなければ楽に優勝してたんでしょ?」
ロフェイはニヤッと笑った。
「不正ってなんのことだ」
「いや、それはその……」
男が口ごもる。そして汗を掻きながら、彼女の手を引いた。
「か……帰るぞ」
踵を返そうとしている。
「ちょっとどうしたのよ」
「きょうは体調が悪いんだ……」
体調の悪い男の背中に、ロフェイが声をかける。
「待て」
「はいっ」
男はピンと背筋を伸ばし、足をそろえて立ち止まった。
「てめえにゃ用がある」
「なっ、なんでしょうか」
おそるおそる振り返る男。
「カネの話をしたい」
「い、いく……いくら払えば勘弁してもらえますでしょうか」
ロフェイが首をかしげる。
「何言ってる。てめえにゃ、金貨十枚の約束があったじゃないか。オレは熟練者戦で優勝したんで、無事に金貨二十枚を手に入れた。いまここで返すことができる」
男は大きく首を振った。
「とんでもございませんっ」
「だが約束だったんじゃないのか」
「じょ、冗談です。あれは冗談でした。すみません!」
「なんだ。冗談だったか。本気にしちゃったぜ」
「そういうことで……」
男は彼女を連れ、逃げるように去っていった。
彼女といっしょだった二人の女たちも、ブツブツ言いながら店を出た。
ロフェイが耳元でささやく。
「オレたちも店出ようか」
わたしたちはレジに向かって歩いていった。
「あの子、やるわね。チャンピオンの男を手に入れるなんて」
「いいなあ。あたしもああいう感じのカレシ欲しいな」
「よく見れば獣人とはいっても、確かにすっごく可愛い顔だし。そりゃ、素敵なカレシができるわな」
他の客たちに見せつけるように、カレシ設定のロフェイの手をぎゅっと掴んだ。どんなに強く掴もうと、拒まれることはなかった。
いまわたしは、甘えてはならない人の優しさに甘えている。
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