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第二十四話 世界ケモミミ連盟なので困っている

「そ、そういえば、柳」

「なんだ」


 柳は目の前の新聞を閉じて、少し忌々しげにこちらを向いた。事実を言えば、さらに面倒を引き起こすだけだ。それなら聞きたいことを訊いて、語らせるに限る。

 テアが背後から観察しているなか、俺は話を切り出す。


「世界ケモミミ連盟ってなんなんだ?」

「なんと……!」


 柳は目を見張って驚いていたが、次の瞬間眉根を寄せて俺のことを凝視してきた。


「世界ケモミミ連盟――WKOを知らないだと……」


 いや、知らないだろ。そんなバカバカしそうな団体。実在すら疑うわ――というのは容易いが、ここは柳に語らせておく。

 柳はふんぞり返って、先を続けた。


「WKOは世界のケモミミ好きが集まる国際機関だ。ワタシはジュニアフェローとしてWKOの国際会議に出席したこともある」

「マジで存在するのか、てかジュニアフェローってなんだ」

「簡単にいうと研究者ってところか。World Kemomimi Organizationだぞ、世界に名だたる国際機関の一つだ」

「いや、生きてきて一回も聞いたこともなかったが……」


 というか、ケモミミはKemomimiなのか。もう色々ツッコミどころしかない。

 柳は人差し指をくるくると回しながら、言う。


「だから、先程言ったのだよ。ひがし・うん・ゆう、ケモミミをモフることは世界平和に繋がるのだよ。さあ、彼女をこちらに渡し給え、君も共にモフることで脳内ケモミミ回路をSDGsにコミットしてPDCAサイクルを見える化するのだ」


 柳はまるで幽霊のような手付きでこちらに近づいてくる。そのテンションがさっぱり分からない。


「言ってることがマジでさっぱりだし、テアも怖がってるから止めてくれ」


 テアは俺の背後にしがみついていた。背後から彼女の体温が伝わってきた。柳のことを本能的に危険人物とみなしているのだろう。残念だが柳よ、これが普通の反応だ。

 柳はまた目を見開いて、驚いた表情になった。……この表情、結構怖いので止めてほしいのだが。


「名前はテアというのか」

「あっ、しまった……」


 あまり関わらせたくない人間なので、教える情報は最低限にしていたのだがつい口に出てしまった。柳は顎をさすりながら、中空を見つめ何かを考え始めた。もう片方の手の人差し指は、コツコツと書見台を叩いていた。


「ふむ、古典ギリシャ語の『女神』――Theaに由来すると考えて、そこらへんの人名か。だが、英語だとティーアくらいの発音になるはずだが……」

「何ブツブツ言ってるんだ?」

「人名からある程度何処出身の人間か分かるだろう?」

「はあ……」


 目の前で真面目に考える柳はケモミミ少女――テアが異世界から来たとは思いも寄らないだろう。

 そんなところで、一つ思いつくことがあった。


「柳、お前、言語に詳しいのか?」

「まあ、趣味レベルだが、全く知らない奴ら(マグル)よりは分かる自信がある」

「マグルって……」


 やはり変人なので柳の言葉遣いは往々にして分かりにくものだが、要は言語に詳しいというわけだ。テアの言葉に関して聞けば分かることもあるかもしれない。

 そう思った矢先に柳はハッとした顔になって、「もしかして」と呟いた。


「ミス・テアは日本語が話せないのか?」

「ま、まあ、そんなところだ。しかも、彼女の地元の言葉は少数民族で、教本が無いんだ」


 適当にそれっぽいことを言ってみる。我ながら本当に適当なことを言ったものだと思う。

 しかし、柳は変人で本質的にバカなおかげで納得したように頷いて……そして、ギャンッと目をまた見張った。


「日本語も知らない外国の美少女を手篭めにするとは、なんて性癖なのだ……!」

「違うっつってんだろ」

「それで、何故そんなことを訊いたのだ」

「日本語を教えるのにも手探り状態で困ってるんだよ。お前みたいな奴でも何か役立つかと思って」

「酷い言い草だな。ワタシも傷つくんだぞ」


 柳はまた眉根を寄せた。傷ついているらしい。

 投げ飛ばされてもついてくる癖に、言葉で言われると雑な扱いが分かってしまうものらしい。いや、そう扱われるに足りることをしているとは思うのだが……


「そんなもの国際交流基金の日本語コースにでも投げれば良いじゃないか」

「だから、英語も日本語も分からないんだって」

「それは困ったな」

「手を貸してくれ」

「ふむ……」


 柳は腕を組んで、真面目な顔になる。それはそろっと背後から出てきたテアが一瞥して、また俺の背後に戻っていった。


「まあ、暇つぶしにもなるだろう。手伝わんでもない」

「ありがとう。まず何から始めたら良いと思う」

「まず、これまで分かった言葉を教えてくれ。語彙表を作成してから、音素目録を考えるのからだな」


 そういって、柳は手持ちのボストンバッグからルーズリーフを書見台に置く。カートリッジ式の万年筆を取り出す。訊く態勢を整えた柳の隣に俺は座る。テアも俺の横にちょこんと座った。

 そこから、テアの言葉のまとめが始まったのであった。自分の横に座るテアがケモミミをぴこぴこ振らしている気がした。

【これまでのテアの言語のまとめ】


★語彙

「アスティラン」 やめて

「テア」 テア(人名)

「アヴィラン」 ありがとう

「ユラ」 好みである、好き

「アス」 ~ではない

「イミハ」 着る

「イル」 動詞の前についてそれが過去であることを表す

「レンイル」 これ

「アガフ テ」 風呂

「イフ」 何、どうした、~か?

「シュル」 フライパン(?)

「ティラ」 ~したい、望む

「アシュ」 分かる、理解する

「キィ」 本

「ヤバ」 ~である


★文法

・語中では一部の音が濁音化する。このため、濁音化しないところで単語を区切れるはずだ。

・動詞には主語を表す語尾が付く。自分を表す「~ン」、相手を表す「~ル」、第三者を表す「~ト」が今までわかっている。

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