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第二話 男女の問題(解決編)

「う、うん……勝美さんは男で、薫さんは女だったんじゃないかって思って……」

 亜希子の顔からは余り自信が感じられない。声もボソボソとしている。村田は励ますように笑って尋ねた。

「どうして?」

「だってほら、少女マンガ家、数学の先生って書いてあるだけですから。確証はありませんけど……」

 柘植はそれを聞いて、ページを繰り始める。そして本当だと驚いたように呟いた。

「数学の先生だからと言って男性とは限りませんよね? それにグレープフルーツを食べようとして、指切ってるけど、料理が下手な女性だっていませんか?」

「でも、僕って言ってますけど……」

 大月は戸惑ったように言ったが、柘植には分かっているらしい。しきりに頷いている。

「僕っ子ですか」

「無理があったかな」

 わたしは決まりが悪くなって、彼に尋ねた。男性には負けたくないのは事実である。しかし卑怯な問題を出しても、かえって虚しくなるだけ。あくまで同じ土俵の上で勝負したい。わたしはそんなことを考えながら、柘植の答えを待った。

 彼はしばらく考えるように天井を見上げていたが、笑う。

「そう、ですね……、アニメが好きなら現実にいると思います。僕の知り合いにもいますし……。それにキノの旅も伏線、ですね」

「どういうこと?」

 大月が柘植に尋ねると、彼はもごもごと言った。

「ラ、ライトノベルだよ。キノって女の子が世界中を旅するんだけど、自分のことを『ボク』って言うの」

 へぇ……、と大月が呟くと、村田へ尋ねた。

「あ、でもこういうのって、問題ない……んですよね」

「うん、全然問題ない。現に『キノの旅』を知らなくても問題が解けるでしょ? 烏龍茶にするから、って薫は言ってるけど、妊娠してたのが薫なら納得が行くし。グレープフルーツ、梅干し……みんな妊婦さんが欲しがるものよね?」

 村田たちの話を聞いているうちに、自信が湧いてきたらしい。晴れやかな顔で言った。。

「薫さんが女性だとすれば、勝美さんが男性だっていうことになりますよね? 男性の少女マンガ家だっていますし。そうすれば<妻が>苦しんでいるって言うのも当たり前です」

「どう? 萌。正解?」

 村田の質問に、わたしは頷く。

「ええ、合ってます」

 そして亜希子へ尋ねた。

「ちなみにどこで分かった?」

「うーん、最初の違和感は文体かなぁ」

 意外な答えにわたしも思わず聞き返す。

「文体?」

「う、うん……上手く言えないんだけど、何かいつもと違って文章が滑らかじゃないっていうか、ゴツゴツしてる感じがして」

 亜希子は言葉を選んでいるらしい。ゆっくりと答えると、さらに続けた。

「だからよく読んでみたの。彼とか彼女っていう言葉が、今回は一回も出てこないでしょ?」

「確かに言われてみれば……そうですね」

 柘植の呟きが聞こえてくる。亜希子は説明を続けた。

「それでね、いつもは彼とか彼女とか使ってるのにどうしてなんだろうって考えてみたの。そしたら……」

 わたしは彼女の言葉を継いで答える。

「使いたくても使えなかった、と」

「うん、それともう一つあるんだけどね……」

 亜希子は躊躇っているかのような物言いである。しかし村田はかえって興味をそそられたらしい。身を乗り出して尋ねた。

「何々? いいじゃないの。当てたんだから」

「え、ええ、これは反則気味なんですけど……」

 彼女はそう言うと、わたしの顔を一瞥して続ける。

「萌と話してると、男の人に負けてたまるかっていう信念みたいなものが感じられるんですよ。今回も女の人は料理ができて当然だっていう考えを批判してる、とも受け取れますし」

 なるほど、とわたしは心の中で呟いた。どう楽しませようかだけを考えて書いていた。しかし知らず知らずのうちに、思いがにじみ出ていたらしい。

 そんなことを考えていると、大月がわたしへ言った。

「あぁ、そういえばデート代は割り勘でしたよね。今の話で何となく分かったような気がします」

「まぁ、変な貸し借りを作っちゃうと後々面倒だしね。だから相手が社会人でも一円単位で割り勘」

「へぇ、対等なんですねぇ」

 大月の口調は羨ましそうである。わたしは誇らしさと照れ臭さが湧き起こった、。

「そうだよ。完全に対等な関係が一番だけど。彼氏にはなんだかんだで助けてもらうことが多いし」

「例えば?」

 村田はそう尋ねると、下卑た笑いを浮かべる。その笑いに、答える気が失せてしまった。

「また今度教えますよ」

 わたしはそうあしらうと、手作りのクッキーを勧めた。村田と亜希子は顔を見合わせると、何事か囁き始める。内容までは聞き取れなかったが、その態度にわたしは少しだけ傷付いた。

 しかし大月は嬉しそうに一口かじる。その笑みは段々と曖昧なものに変わっていく。

「ど、独特の味がしますね……」

 そして静かに立ち上がると、彼女は教室の扉を開けた。その後、廊下に響き渡る足音。村田は溜息交じりにこう言ったのだった。

「萌、わたしたちを毒殺する気? 女だから料理ができて当然、なんて言わないけど、食べられるクッキー出しなさい」

 

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