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第五話 規則の問題(ヒント)

 大月は頷くと、カバンから本を取り出して、机の上に置いた。タイトルはカフカの『城』。陽に焼け、表紙も色褪せている。亜希子の苦笑が漏れてきた。それを聞いて、大月が恥ずかしそうに俯く。

「買い直したら? ブックオフなら100円で売ってるでしょ」

 村田は言ったが、大月は口ごもる。その様子に村田は眉を顰めて言った。

「まぁいいけど。それで? カフカの『城』がどうかした?」

「どんなあらすじの話?」

 柘植の質問に、大月は考え考え答える。

「えーと、測量士の人がお城に招かれるんだけどね、タライ回しになって最後までたどり着けない話」

「カフカってこういう話好きよね。裁判が延々と続くとか」

 亜希子が口を挟むと、村田は頷いた。

「そうね。担当弁護士は仕事がなくならなくていいでしょうけど……」

「あとその裁判の話もそうなんですけど、規則に縛られてる話も。でもその規則には意味がないんですよねぇ。まぁ……」

 法学部のわたしと村田に気兼ねしてるんだろうか。大月はそう言うと、躊躇いがちに続けた。

「規則とかに意味はないって言いたかったのかもしれませんね」

 ふうん、という声を柘植は漏らす。退屈そうな声だった。確かに小説を読んだことがなければ、蚊帳の外である。

 村田は咳払いをして、大月へ尋ねた。

「まぁ、それはそれとして一応確認。話の内容を知らないと解けないってことはないわよね」

「ええ、もちろん。重要なのはそこじゃなくて、出版にまつわる逸話なんです」

 大月はそう言うと、しばらく本のページを繰っていた。やがて、わたしたちに向けて本を置く。

「ここにも描いてあるんですけどね、『作品は大判のノート6冊に書かれており、25の区切りのうち19に章名にあたるものが付いている。ブロートはこれを再構成し、20章のまとまった章にして出版した』とあるでしょう? つまり」

 大月はそう言うと、言葉を区切った。そして笑顔でこう続ける。

「構成は順番を入れ替えても成り立つ、と」

「順番……順番……」

 それを聞いて、柘植は呪文のように呟いていた。それとともに鉛筆の音が教室へこだまする。亜希子の囁き声が聞こえてくる。苦笑交じりだった。

「大月さん、確かにそうなんだけど余計に話をややこしくしてるような……」

「あぁ、なんだ、答え分かってたんですか」

 大月は落胆したような声で言うと、口惜しそうに続けた。

「せっかくの自信作だったのになぁ」

「ドンマイ。でも面白い発想だったわよ?」

「ありがとうございます」

 二人の囁き声が途切れると、村田はわたしたちへ言う。

「そろそろ答え合わせにしてもいいかな? 時間、もう少し欲しい?」

 柘植を待っていたせいもあり、その分、問題を解く時間が削られてしまったのだ。彼もその自覚はあるらしく、躊躇いがちに答える。

「僕は別にどちらでも……」

 別に構わない、とわたしも村田に告げた。その答えを聞いて、村田はスマホで時間を確かめる。そして、安堵の息をつくとこう言ったのだった。

「答え、分かった人いる?」

 しかし亜希子は何も言わない。みんなの答えを聞いて、楽しもうと思っているらしい。わたしは溜息をつくと、手を挙げたのだった。

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