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第四話 群衆の問題(ヒント)
彼女はカバンに手を伸ばすと、一冊の文庫本を取り出した。G. K. チェスタートン『ブラウン神父の秘密』。推理小説の古典である。
亜希子はページを繰って、わたしたちに見えるように机の上へ置いた。柘植とわたしは立ち上がって覗き込む。そこにはこう書かれていた。
「奇想天外なトリック、痛烈な諷刺とユーモア、独特の逆説と警句、シャーロック・ホームズものと双璧をなす短編推理小説の宝庫ブラウン神父譚……」
「あぁ、懐かしい」
わたしが思わず呟くと、亜希子も身を乗り出す。
「やっぱり萌も読んでたんだね」
「もちろんもちろん」
柘植は心配そうに割って入った。
「あの、すみません。小説の中身を知らないと解けないなんてことはありませんよね」
それを聞いて、亜希子は笑って手を振る。
「ないから安心して」
分かりました、と柘植は呟くと、村田が言った。
「ヒントも出たことだし、そろそろ時間にしましょうか。解けた人いる?」
それを聞いて、わたしは笑顔で手を挙げたのだった。




