第60話 レッツ・パーティータイム
ブロックは、茂みから収容所の様子をうかがっていた。
「やはり前回潜入した時よりも、格段に警備体制が強化されているな……」
弓兵は櫓にしか配置されていなかったが、今は城壁のいたるところにいる。
兵士数が百から千になったのは間違いないようだ。
「やっぱただの収容所じゃないよな。中に何があんだろ? よっぽど重要なものに違いないぜ?」
奴等は骨を集めていた。それを何かに加工している工場なのだろうか?
だとしたら、おぞましいにも程がある。
「将軍、どう攻める? ワシは正面から斬り合ってもよいぞ?」
「私もだ。奴等の攻撃、我が盾で全て受け止めてやろう」
「私もそれでいいわ。コソコソするのは苦手なの」
「俺は城壁を制圧して、アリスと援護射撃をしたい。――ラストリーフ殿、<飛翔>は使えますか?」
「ほい。ラストリーフ、使えます」
「俺もそっちへ回る。正面から斬り合うタイプじゃねえからな」
ブロックはうなずく。
「では俺とゲンリュウサイ殿、クレストハルト、ヴォルボスは正面入り口から突っ込む。ラジ、ラストリーフ殿、パラッシュ兄妹は城壁の制圧と援護射撃を」
「了解!」
ラジチームが、攻めやすい位置まで茂みの中を移動していく。
「――よし、いくぞ!」
ブロック、ゲンリュサイ、クリストハルト、ヴォルボスの四人は茂みから立ち上がると、普通に収容所入口に向かって行く。
見張りの帝国兵がこちらに気付いた。
「――何だお前達は? ここは立ち入り禁止だぞ!」
帝国兵が威嚇の為に剣を抜いた。
それが開戦の合図となる。
「お前達を皆殺しにする為、俺は戻って来たぞ!」
「さあ、三桁目指すとするかのう!」
「正義の鉄槌を食らわしてやろう」
「悪よ、滅しなさい」
「うおおおおおおおおおおお!」
ブロックは新調したウォーハンマーを振り回し、見張りの二人を吹き飛ばすと、一気に施設内へと突入する。
その様子を見ていた櫓にいた弓兵が、敵侵入を知らせる鐘を鳴らし、建物内から続々と帝国兵が出てきた。
ゲンリュウサイは静かにゆったりと、帝国兵の群れに歩み進む。
トンッ―― シュパッ―― スッ――
一切無駄な力と動きがない斬撃で、鮮やかに敵を斬り殺していく。
それは水の流れのように自然な動きだ。
<清流剣>対多数に特化した、ゲンリュウサイの秘技である。
これを使えるのは、ゲンリュウサイとその息子のみ。
類まれなる才能と、数多の戦場をくぐり抜けてきた者だけが会得できる、秘技中の秘技なのだ。
「――うわああああ! 何だこのジジイ!? 奴の間合いで戦うな! 槍で突け」
帝国兵指揮官の判断は正しい。射程外からの一斉攻撃に勝る戦法はない。
――ただし、相手が常人の場合に限るが。
ゲンリュウサイは槍衾の間を、ゆらりと進み淡々と帝国兵を斬っていく。
リーチの差など、ものともしないからこそ剣聖なのだ。
「正義! 正義! 正義!」
「ぺぎゅっ!」「ぷぎゅっ!」「ぽぎゅっ!」
帝国兵の頭がスイカのように弾けていく。
不死身のパラディン・クレストハルトの正義のメイスで、次々に頭を粉砕されているのだ。
「メイスはリーチが短い! 肉薄されるな!」
帝国兵達はゲンリュウサイを相手にするのと同じように、メイスの間合いの外から槍で突く。
ガンガンガンガン!
「クソオオ! 全部盾でブロックされてしまう! 盾捌きが半端じゃないぞ!」
守りに重点を置いた戦い方を得意とするクレストハルトは、戦士の中でも最上級の盾スキルを持つ。
ではこの事が、彼を不死身のパラディンと呼ばせているのか? 半分は正解だ。
「――こっちも守りを固めろ! スタミナが減れば、隙ができる!」
八人で千人を相手にしているのだ。帝国兵指揮官の判断は正しい。もちろん相手がクレストハルトでなければだ。
「正義! 執行! 正義! 執行! <精力回復>」
クレストハルトは帝国兵の頭をプチプチと潰しながら、自分のスタミナを回復した。
彼は回復魔法のスペシャリストでもあるのだ。これが不死身と言われるゆえんである。
インニャは目の前に群がる敵に対し、竜の咆哮を使う。
数十人が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「正面に立つな! 囲め!」
衝撃波の範囲が思ったより狭いと判断した、帝国兵指揮官の的確な指示である。
……もちろん、彼女の能力がこれだけであればの話だ。
「――フォッ!」
インニャの口から、炎のブレスが放たれる。
レッサードラゴン以下の範囲しかないが、それでも囲っていた帝国兵をまとめて焼き殺すには十分だ。
「弓が飛んでこないから助かるわね」
インニャはチラリと城壁の上を見る。
ラジ・ステンマルクとレイ・パラッシュが次々と斬り込んでいき、ラストリーフが一列に並んだ弓兵を<雷撃>で貫いている。
「彼女は何もしないのかしら……?」
レイ・パラッシュの妹はラストリーフよりもさらに後方で、ぼーっと突っ立っている。
彼女の能力は完全に未知数。実はラストリーフが興味津々だ。
「あのレイ・パラッシュより、立場が上なんですものね。果たしてどんな力を持っているのやら――」
「突撃! 突撃! とつげえええええき!」
どうやらインニャ達が相手にしていたのは、足止め用の不完全装備の歩兵だったようだ。
数百人の重装歩兵が一斉に突っ込んで来た。
「さすがにこれはまずくてよ……!」
だがサイクロプスがいると聞いているので、まだドラゴンモードは使えない。
あれは一日一回だけの切り札なのだ。
インニャは再び咆哮を使う。
吹き飛ばすには吹き飛ばしたが、重装鎧とタワーシールドで武装した彼等には、そこまでの損害を与えられない。
「聖剣を使うわ!」
赤きハルバート『ザンザム・ヌミテ』を地面に捨て、背中に背負った大剣を抜く。
『聖剣スヘペリオス』。勇者だけがもつ事を許された、神器クラスの武器である。
柄を握っていれば、所持者のMPと引き換えに自動的に体力が回復する。
インニャは、無傷で帝国重装歩兵たちを退けるのは不可能と判断したのだ。
「チェストォ!」
タワーシールドごと、重装歩兵を切り裂く。
インニャはどんどん斬り込んでいき、奥にいる指揮官の首を狙う。
だが、こいつらは先程の雑兵よりも練度が高く、なかなか押し込めない。
ついに反撃を受けてしまったが、魔力の膜によって防がれた。
「ラストリーフ……! <魔力の砦>を使ってくれたのね!」
<魔力の砦>は一定範囲内にいる味方すべてに、魔力の膜を付与する。
防御範囲は絶大ではあるが、一人のMPでそれを支え続けるには無理がある。
MPの供給役がいないと成り立たない魔法だ。
(――一体だれが?)
城壁の上でラストリーフとレイ・パラッシュが手をつないでいる。
(彼はそれほどのMPを持っているというの?)
だが今は、そんな事を気にしている余裕はない。
目の前の敵に向かって、スヘペリオスを振るう。
横を見ると、ブロック将軍やクレストハルトも攻撃を受けているのが見える。
完全に回避できているのはゲンリュウサイだけだ。
「ラストリーフ! このままじゃ<魔力の砦>がもたないわ! <極小核爆発>で吹き飛ばしてくださる!?」
城壁の上にいるラストリーフは、手でバツを示した。
MPが無い為なのか、インニャ達も巻き込んでしまう為なのかは分からない。
とりあえず一つ言える事は、今ちょっとピンチだという事だ。
「それはそうよね――四人だけで何百人の重装歩兵を相手にしてるんですもの」
――バアッシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ!
上から無数の白い光線が降り注ぐ。
「――な、何かしら!?」
「おお! 凄いの!」
「……妹君の魔法のようだ」
「ほう――さすがレイ・パラッシュの妹だけはある」
重装歩兵たちがバタバタと薙ぎ倒されていく。
「やるわね。かなり正確に急所を直撃させているわ」
「クレストハルト、この魔法は何だ?」
「……<魔法の矢>だ。だが、普通のものでは無い。クールタイム無しで撃っている」
「がはは! 兄妹そろってイカれておるの!」
<魔法の矢>の掃射は続き、重装歩兵たちを半壊させ、建物内に退却させた。
「ラストリーフは完全に見せ場を失ってしまったようね」
「よし! このまま施設内に突入するぞ! ラジ! お前達も来てくれ!」
ブロック隊はそう伝えると、建物の中へと侵入していった。
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