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第56話 潜入②

 ブロックは再び一階に降り、肉剥ぎ部屋の前を通る。


――今度は少女の悲鳴が聞こえた。


「女子供にまで手を出しているのか……! どこまで下劣な連中なのだ!」


 扉を静かに開き、中をのぞく。


「いやあああ! パパ、ママ! 助けてえええええ!」

「やだやだやだやだ!」


 何人ものナミティオ族の少女たちが、帝国兵に暴行されそうになっている。


「へへっ! 仕方ねえだろ! 俺達だって、仕事でやってるだけなんだ!」

「そうそう、犯してから肉を剥ぐと、魔力が骨に籠るんだわ! ぐへへへへへ!」

「やれやれ、パンツが乾く暇ねえ! まったく魔導鎧(まどうがい)様様だぜ!」


――プチン!


「このクズどもがああああああああ!」


「ごべっ!」「ぼぎゅっ!」「げろぱっ!」


 ブロックは考えるより先に、ウォーハンマーで三人の帝国兵をミンチにしていた。


「少女達よ、もう大丈夫だ……」


 優しく静かに声を掛け、少女達を安心させる。

 彼女達は事情を察したのか、声を出さずにこくりとだけうなずいた。



「――おーい、なんかあったのかー?」

「ふんっ!」


 様子を見に来た帝国兵を、鎧ごと叩き潰す。


「賊だ! 賊が侵入したぞ!」

「くそ、見つかってしまったか……少女達よ、囚人達がいるのは離れにある二つの建物か?」


 少女達はこくこくとうなずく。


「よし、こうなれば強硬突破だ! うおおおおおおおおおお!!」


 ブロックはウォーハンマーを振り上げ、石壁に思い切り叩きつけた。

 奥義「山崩し」。文字通り山をも崩すその一撃は、石壁に大きな穴を開ける。


「これで近道ができた!」


 矢を射かけられる前に、囚人の建物まで一直線に突進する。

 進路上に突っ立っていた帝国兵は、イノシシに撥ね飛ばされたように宙を舞う。


「おおおおおおおおおおお!!」


 ドッコーン!!

 ドアから入らずに壁をぶち破って、建物内に侵入する。


 ビンゴ! 牢の壁だったようだ。

 囚人たちが目を丸くして、ブロックを見ている。


「さあ、俺が暴れている内にさっさと逃げろ!」


 全員が無事に逃げるのは不可能だろう。だが、それでも何もしないよりは全然いい。



「こっちはスカンラーラ人……では、向こうは……」


 かつての敵国と言えど、あのような非道な目に遭わせる訳にはいかない。

 ブロックは外に飛び出し、駆けつけてきた帝国兵を叩き潰す。


 そして、もう一方の建物の壁を同じように破壊し、牢の中へと侵入する。


「さあ! 早く逃げろ!」


 彼等は困惑しつつも、すぐに事態を把握できたようで、外へと逃げ出していく。



「よし、射手を牽制してやる!」


 建物や塀は石造りだが、(やぐら)は木製だ。支柱を叩けば破壊できる。


「どおおおおりゃあああああ!」


 帝国兵を薙ぎ倒しながら、櫓の柱めがけウォーハンマーをフルスイングする。

 櫓はメキメキと音を立てながら崩れ落ちた。



「どっせえええええええええい!!」


 次の櫓まで猛突進し、これを破壊する。

 雑兵ごときにブロックを止める事はできない。


「これで脱出口側の櫓は潰した。彼等が無事逃げ延びてくれるのを祈るのみだ」


 あとはここでひたすら暴れて、帝国兵が彼等を追えないようにする。それが彼に残された最後の仕事だ。



「いくぞおおおおおおおおおお!」


 櫓と弓兵を優先的に仕留めながら、帝国兵をグッチャグチャにしていく。


「奴だ! 殺せ!」


 百を超える帝国兵が、詰所のような建物から出てきた。


「おおおおおおお!」


 ブロックはあえて、帝国兵に突っ込み肉薄する。こうする事で弓を使わせないようにするのだ。

 接近戦において無敵を誇る彼だからこそできる、荒業である。


「ぐわあああああああ!」

「何なんだ、こいつは!?」


 圧倒的数的優位をもちながらも、帝国兵たちは完全に押されている。



 ズゥゥゥンッ! ズゥゥゥンッ!

 凄まじい地響きに、何人かの帝国兵がよろめく。


「やっと来たぞっ!」

「遅いぞ!」


 大きな建物から、サイクロプスが姿を現した。


「――やはり出てきたか……!」


 あれを相手にしながら、帝国兵と戦うのは無謀に等しい。――だが、退却は許されない!


「うおおおおおおおおおお!!」


 ブロックは帝国兵を弾き飛ばし、サイクロプスの脛にフルスイングをお見舞いする。



「グオオオオオオオオオオオオ!」


 サイクロプスは痛そうにしている。――だが、それだけだ。


「信じられん……まるで鉄のような表皮の硬さだ……!」


 打撃武器はあまり有効ではないのだろうか?

 しかし、刃物もまったく通らなさそうではあるが……。


「ならば、指を狙いバランスを崩す!」


 ブロックはサイクロプスの小指目掛け、山崩しを放つ。

 ボキィッ!

 骨を折った感触が伝わる。


「グギャアアアアアアアアアアア!」


 相当痛かったのだろう。サイクロプスはその場で暴れに暴れる。

 それに何人もの帝国兵が巻き込まれ、吹き飛ばされた。


「もう一丁!」


 サイクロプスが振り回す腕を避けながら、次は薬指を狙う。

 ボキィッ!


「グガアアアア! グガアアアアア!」


 サイクロプスは後ろに倒れ、尻もちをついた。


「よし、いいぞ! 脳天をかち割ってやる!」


 サイクロプスの頭の後ろに回り、ウォーハンマーを振り上げる。



「――ごはっ!!」


 ブロックは右側面に凄まじい衝撃を食らい、遥か彼方まで吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「がっ……ぐはっ……!」


 完全に骨が折れてしまい、動く事ができない。

 ブロックは首だけ動かし、サイクロプスの方を見る。


「なんという事だ……」



 尻もちをついたサイクロプスの後ろには、もう一匹同じものがいた。


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