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第51話 狂乱の宴

 マルヤンは七人のメンバーを引き連れて、ニランサ村へと到着した。

 彼等は足跡を追跡できる能力を持たないので、村でゴブリンの襲撃を待つ事にする。


 村に一軒空き家があったので、彼等はそこに泊まる事にした。


「でぶぅ! でぶぅ!」


 マルヤンは村人が出してくれた料理を、ガツガツとむさぼる。


「でぶぅ……おで様の新型のマジックポーションを試すには、丁度良い依頼だでぶぅ。――おいお前、おでの肩を揉めでぶぅ」

「わかりました……」


 男のギルドメンバーは、嫌々マルヤンの肩を揉み始める。


 もはやマルヤンの力なしでは【高潔なる導き手】は成り立たなくなっている為、彼はギルドの三番手にまでのし上がっていた。

 権力に溺れたマルヤンは、メンバー達を舎弟のようにこきつかっている。


「くそう……何で女がいないんでぶぅ……!」


 力にものを言わせて、ご奉仕させてやろうと思っていたのに……!

 女メンバーは全員、バルバラとボグダンに取られてしまった。マルヤンの機嫌は悪い。


「おいお前、村の女を何人か連れてこいでぶぅ!」

「いや、それはちょっと……」


「じゃあお前には、マジックポーションやらねえでぶぅ!」

「……わかりました。行ってきます」



 どのように説得したのかは分からないが、メンバーは年頃の女を三人連れてきた。

 彼女達は困惑した顔で、マルヤンにお酌をする。


「でーぶでぶでぶ! 王様になった気分でぶぅ!」


 マルヤンは村娘の胸を揉みしだきながら、ワインをぐいっと飲み干す。

 金、名声、女、自分はすべてを手に入れたといっていいだろう。


「いや、まだでぶぅ! おではもっと上を目指すでぶぅ!」


 今回のマジックポーションのテストが成功すれば、ナンバーツーも夢ではない。

 マルヤンは、自慢の自家製マジックポーションを取り出す。


「しかし、我ながら天才でぶねぇ……他の素材でマジックポーションを作ってしまうとは……」


 恐らく錬金術師界で、初めての事なのではないだろうか?

 このテストが成功したら、学会に発表したいところだ。そうすれば、さらなる富と名声が手に入る。


「副作用がどれくらいかは謎だけど、まあ死ぬ事はないだろうでぶぅ」


 どうせ頭痛や吐き気だろう。一番厄介なのは下痢だろうか。



――そんなマルヤンの甘い考えは、翌日見事に打ち砕かれる。



     *     *     *



「死ねやああ! <火炎放射(メギナル)>」「<範囲拡大(ヘイボル)>」

「殺せ殺せ! <猛吹雪(ゾチルト)>」「<連続魔法(ジアダ)>」


 ゴブリン達がバッタバッタと薙ぎ倒されていく。


「でぶぅ! いいぞぉ!」


 メンバーの後ろで、マルヤンは高みの見物だ。


「マルヤンさん、MPが切れました! マジックポーションを! 早く奴等をぶっ殺してやりたいんです!」

「よし、いいぞぉ! 受け取れでぶぅ!」


 マルヤンは、メンバーにマジックポーションを投げ渡す。


「うおおおおお! 殺す! 殺す! ゴブリンどもを皆殺しにしてやるうううう!」


 最初、百匹近くのゴブリンに囲まれた時は、思わずちびりそうになってしまった。

 まさか、こんなに大きな群れだとは思わなかったのだ。


 だが、メンバー達は凄まじく高い士気を見せてくれ、完全に奴等を圧倒している。その姿はまさに鬼神のごとしだ。


「おでの将としての器が、ここまでとは思わなかったでぶぅ! でーぶでぶでぶでぶ!」


 優れた将の元では、兵は死を恐れないと聞いた事がある。つまりそういう事なのだろう。


「殺せええええええええ!」

「皆殺しだああああああ!」

「臓物をぶちまけろおおおお!」


 メンバーは目をギラギラとさせながら、ゴブリン達を殺戮していく。


「おお! あと三匹だけでぶぅ! 今回のテストは大成功でぶぅ!」


「オラアア!」

「頭かち割れえええ!」


 メンバーは杖でゴブリンを殴打し始めた。

 だが、魔術師の杖は人を殴るようにはできていない。すぐに折れてしまった。


「石だあ! 石を使えええええ!」

「――でぶぅ!?」


 メンバーは落ちていた石をつかみ、それで何度もゴブリンを殴りつけている。


「わっはっはっはっ! 最高だぜええええ!」

「うっひょおおおお! 脳みそ潰すの気持ちいいい!」

「何やってるでぶぅ!? もう死んでるでぶよ!?」


 マルヤンはようやく、何かおかしい事に気付いた。


「まさか……副作用でぶか……?」


 メンバー達は笑いながら、死んだゴブリンを石でグチャグチャにしている。


「ひ、ひぃ……」

「マルヤンさん、俺達やりましたよ! ハハッ!」


 顔と手を血まみれにしたメンバーが、焦点の合わない目で近づいて来る。


「ご、ご苦労でぶぅ……では、一旦――」

「あれええええ!? まだ、ゴブリンがいるじゃないですかあああ!?」


「でぶぅ!?」

「本当だ! あそこに隠れてるぞおおお! 殺せええええ!」


 メンバーは、窓からのぞいていた村人の元に押し寄せた。


「<火炎放射(メギナル)>」

「<雷撃(イドラス)>」

「ギャアアアアアア!」


「お前達、やめろでぶぅ! それは村人でぶぅ!」


 マルヤンの制止を聞かずに、メンバーは家の中に突入する。

 そして、次々と悲鳴が聞こえてきた。


「あわわわわ……」


 とんでもない事になってしまった。マルヤンは震えて失禁する事しかできない。


「他の家にもゴブリンがいるかもしれねえ! 必ず見つけ出して殺せ!」

「おおおおお!」


「マルヤンさん! あの最高のマジックポーションくださいよおおおお!」

「は、はいでぶぅ……」


 完全にイってしまっている目を見て、マルヤンはうなずく事しかできなかった。



 そして地獄のような殺戮が始まる。


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