第48話 最終話:同盟締結
――翌日。
殿は尾張の港町津島を自ら案内した。
松平家の一行は、賑わう津島湊に熱い視線を送っていた。
「竹千代。港は良いぞ。水運、海運が発達すれば商人が増えて銭が落ちる」
「吉法師殿を見習って三河でも商業を振興したいですな」
殿と松平元康殿は、仲良く馬を並べて津島を見学した。
続いて清洲に戻り清洲城下の町を見学。
清洲、津島の賑わいを見た松平家一行は、織田家の経済力を確信し、織田松平同盟を了承した。
「竹千代。正室と嫡男を、むざと死なせぬ。援軍は必ず送るゆえ安心いたせ」
「吉法師殿。忝い」
松平家一行は、三河へ帰っていった。
土産の清酒、アロハシャツ、パーカーを抱えホクホク顔だったのは言うまでもない。
殿は松平元康殿の姿が見えなくなるまで、街道に立って見送っていた。
友――裏切り、下剋上が頻発する戦国時代で、戦国大名同士で友情を築くのは難しい。
しかし、殿と松平元康殿は竹馬の友だ。
これから同盟を通じて友誼を深めれば、織田家徳川家の間で起る不幸な出来事を回避出来るはずだ。
今朝、殿は松平元康殿のご正室とご嫡男を認め安堵する旨を書状に記し、松平元康殿に渡した。
三河の吉田城攻略が上手く進み今川家の人質が取れれば、人質交渉によってご正室とご嫡男を取り戻せるだろう。
清洲城に戻ると、俺、丹羽長秀殿、又左、藤吉郞の四人――吉田城攻略援軍組で打ち合わせである。
清洲城の空いている部屋を借りて、四人で車座になる。
「ふう。終ったのう」
藤吉郞がホッとしたのか、気の抜けた声を出した。
「藤吉郞。またすぐに吉田城攻略戦だ。兵糧の手配を頼むぞ」
「任せい! その代り木下隊の訓練はしっかり頼む」
援軍の兵糧の手配は、藤吉郞に丸投げすることになっている。
その代り藤吉郞が新たに雇い入れた兵士たち木下隊の訓練を、浅見隊で付けることになった。
藤吉郞は桶狭間の戦を通じて、『気働きだけではイカン!』と感じたそうだ。
故郷の村から弟や知り合いを呼び寄せ、木下隊を結成した。
まだ、十人ばかりの小勢だが、これからは戦場でも頑張るそうだ。
「ところで三河の岡崎城の様子はわかるか?」
俺は松平家の本拠地岡崎城の様子を尋ねた。
すると藤吉郞は、ブルリと震えた。
「いやあ、おっそろしいぞ……。ワシがつなぎを付けた下働きから連絡があったんだが……連絡を伝えてきたのが、今回来た服部ってヤツだった」
「服部半蔵か?」
「おお! そうじゃ! ワシが下働きにつなぎをつけたのが、バレておるんじゃ!」
服部半蔵は忍者の元締めだ。
「あまり岡崎城を探るなという警告かな?」
「まあ、そんなとこじゃろう。それで今川家だがな。松平家に使者を送ったが、随分威張り腐った態度だったらしいぞ」
「やはりな」
「それで駿府に早う出仕して、新しい当主に忠誠を示せと命令したそうじゃ。上座にそっくりかえってのう」
「そりゃヒドイな……」
「松平の連中は腸が煮え返る思いだったそうじゃ。だが……どうやら今川の連中は、松平家が織田家と結ぶとは考えておらんようじゃのう」
藤吉郞はニヤリと笑った。
丹羽長秀殿がふふふと笑う。
「となれば吉田城に備えはなかろう。急襲すれば落とせそうですな」
「丹羽様のおっしゃる通りですわ!」
流れは悪くないと思う。
俺は吉田城攻めの勝利が近づいたと頬を緩める。
又左が動いた。
「おい……。何か騒いでるぞ?」
又左が立ち上がろうと腰を浮かすと、城の奥からバタバタと足音が聞こえてきた。
「爽太! 爽太!」
殿である。
どうしたのだろうか?
俺たちは一瞬顔を見合わせ、すぐにふすまを開けて廊下に出た。
「殿! 浅見爽太これに!」
「おお! 爽太! 大変じゃ!」
殿のお顔はテンパっている。
何事だろうか?
俺たち四人は表情を引き締めた。
「殿! いかがなされましたか?」
「お濃とお市が――」
殿が事情を話そうとすると、パタパタと複数の足音が城の奥から聞こえてきた。
そして、お濃の方とお市様の声。
「殿!」
「兄様!」
お濃の方とお市様が沢山の侍女を引き連れて、殿を追いかけてきた。
殿はササッと俺の後ろに隠れる。
いや、本当に何が起きたんだよ!
お濃の方とお市様が、口を尖らせて殿に抗議を始めた。
「殿! 何やら美味しい物を食べたそうですね! わらわたちの分は?」
「兄様! 天ぷらなる料理を、市も食べたいです!」
なるほど、お濃の方とお市様は昨晩の宴会で出た天ぷらが食べたかったのか。
自分たちの分がないとお怒りなのだ。
「仕方なかろう! あれは竹千代たちを歓迎するための料理で、爽太が考えたのだ! 文句があるなら爽太に言え!」
「えっ!? それがし!?」
何ということでしょう!
いきなり殿が俺に責任をなすりつけた。
お濃の方とお市様の視線が俺に向く。
「浅見! 女房衆をないがしろにしてはなりませんよ!」
「浅見! 市にも天ぷらを食べさせて!」
美女二人に迫られて、俺はタジタジである。
さらに二人の後ろに控える次女たちが、『食べたい! 食べたい!』と目で強い圧をかけてくる。
俺は圧に負けた。
「ごっ……ご安心召され! 今日の夕食に天ぷらをお出しいたしまする!」
ワッと女性陣が華やかな声を上げた。
俺の背後で殿がトンと肩を叩いた。
「ふっ……爽太……大儀である!」
いや、もう、家庭のことを俺にふらないで下さい。
殿と女性陣が引き上げると、俺は仲間たちに助けを求めた。
「さあ! みんな! 魚や野菜を買い集めてくれ!」
「仕方ないのう!」
「じゃあ、港まで走ってくるか!」
「いやいや、大変ですね!」
藤吉郞、又左、丹羽長秀殿も俺のために走ってくれた。
俺も仲間たちに感謝しながら厨に指示を出し、商人のもとに走った。
現代から戦国時代へ。
スキマバイトのおっさんから、織田信長の軍師へ。
――俺は戦国時代を仲間たちと走り抜ける。
■―― 完 ――■
お読みいただきありがとうございました!
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本作はコンテスト用作品として書き始めました。
キリの良い今話で終了とさせていただきます。
■作者近況■
今年はKADOKAWA様より『蛮族転生』のコミカライズ一巻が発売されました。
順調にいけば、今年中に二巻が発売されます。
異世界転生+戦記物です。
ぜひ、お手にとって下さい!
『左遷されたオッサン』の書籍化も予定されています。
先日初稿が完成しましたので、年末か来年に発売されたらなと考えています。
こちらも発売されましたらぜひお買い上げ下さい。
では、また、お会いしましょう!
2025/7/23 武蔵野純平





