第42話 提案のつづき
「二つ目のご提案でございます」
俺は松平元康殿を真っ直ぐ見た。
松平元康殿は目を閉じているが、俺の言葉にコクリとうなずいた。
確実に聞く気持ちになっている。
俺は松平元康殿の興味を引けたことに、心の中でグッと拳を握りながら自信を持って話す。
「松平様のご正室様とご嫡男様の安全を織田家が保障いたします」
松平元康殿がカッ! と目を開いた。
正面から真っ直ぐ俺を見つめる。
(やはり気になっていたか……)
どうやら俺は松平元康殿が気にしていたことをズバリ突いたらしい。
松平元康殿は怖いほど真剣な表情で、嘘偽りは許さないだろう。
俺は内心緊張しながら至極真面目な顔で口上を続けた。
「ご正室様は、それがしが討ち取った今川義元の養女でいらっしゃいますね? 織田家と松平家が同盟を組めば、ご正室様は自分が排除されるのではないかと心配されるのでは?」
「……」
「ご嫡男様も今川家の縁がございますれば、『織田家に忌避されるのではないか?』と、ご正室様や周囲の方々が心配されると思うのです。そこで同盟を組む際に、我が殿からご正室様とご嫡男様の安全を保障する旨を一筆記す……。いかがでございましょうか?」
「むう……」
松平元康殿は腕を組んだままうなった。
喜んではいない。
松平元康殿の目は猜疑の色が濃い。
俺を疑っている?
自分にとって都合の良い提案すぎるから罠かもしれないと警戒している?
俺は松平元康殿の言葉を待ったが、しばらくしても何もしゃべらない。
しびれを切らしたのか、酒井忠次殿が咳払いをして質問した。
「ンンッ! 浅見殿のご提案は非常にその……なんというか……。いや、ありがたいご提案であるが……」
「織田家の利が見えぬと?」
「そうですな。銭のご支援といい、ご正室様と嫡男竹千代様の安堵といい、あまりに当家にとって都合が良すぎるような……」
「罠ではないかと?」
「いや、まあ、そこまでは申しませんが……」
「では、もう一つのご提案も申しましょう。さらに驚かれるかもしれません。三つ目のご提案です。三河の吉田城攻めに織田家は援軍を送りまする」
ザワッと場が騒がしくなる。
松平元康殿は眉根を寄せて、俺をにらんでいる。
好条件過ぎて、もう、何が何だかわからないのだろう。
「聞くところによりますと、吉田城には松平様や東三河国人の縁者が人質として捕らわれていると。吉田城を攻めて人質を助け出しましょう。さすれば松平様も安心して三河の統治が出来ましょう」
「うーん!」
松平元康殿は腕を組んだまま天井を見上げうなり声を上げた。





