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戦国おっさん! ~タイマーと現代知識チートで、織田信長の軍師になります  作者: 武蔵野純平
清洲同盟編

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第33話 筆頭家老林秀貞

 殿は俺に意見を求めた。

 広間に居並ぶ重臣方の視線が一斉に俺へ注がれる。


 好意的な視線はない。


 主戦派の柴田勝家殿、佐久間信盛殿は、敵意を含んだ視線で面白くなさそうな表情だ。

 穏健派の林秀貞殿は、露骨に俺を蔑んでいる。

 林殿は筆頭家老だから、俺のような新参者かつ成り上がり者は嫌いなのだろう。


 他の重臣方も同じだ。


 マシなのは丹羽長秀にわ ながひで殿だ。

 丹羽殿は冷徹な視線を送ってくる。

 俺を見極めようとしているのだろう。


 まあ、前世で新しい仕事先へ行けば、こんなシチュエーションは毎度のことだった。

 タイマーさんは数合わせ要員で、歓迎されないことの方が多かった。

 俺はこんなシチュエーションに慣れているのだ。


 俺は背筋を伸ばし、息を吸ってから殿へ向き直った。

 落ち着いた口調で、殿へ意見を具申する。


「恐れながら申し上げます。それがしは、今川攻めに反対いたします」


 柴田殿、佐久間殿たち主戦派の敵意のある視線が俺に注ぐ。

 まあ、そうだよね。

 新参者に反対意見を表明されたら反感を覚えるよね。


 俺は主戦派の敵意のある視線を感じながらも、平静を崩さないようにした。


「ふむ。では、爽太もしばらくは国力回復に努めよと申すか?」


「いえ。少々違います」


 今度は穏健派の林殿や丹羽殿が訝しむ。


「爽太。では、どうする?」


「それがしは美濃攻めを提案いたします」


「むっ……美濃か!」


 俺の提案に評定の場がザワリとなった。


 美濃とは現在の岐阜県のことだ。

 尾張の北にあり、現在は斎藤義龍が治めている。


 織田家と斎藤家は、斎藤家先代当主斎藤道三『マムシ』の時代は、仲が悪くなかった。

 殿のご正室『お濃の方』は、斎藤道三の娘だ。


 だが、斎藤道三と斎藤義龍が親子で争い、斎藤義龍が勝った。

 斎藤家が代替わりしてから織田家と斎藤家の仲は悪くなり、ちょくちょく武力衝突が起っている。


 俺の発言に柴田殿が噛みついた。


「バカか貴様! 美濃の斎藤家と東海の今川家! 両方を相手取るつもりか!」


 柴田殿に続き、佐久間殿も俺に罵声を浴びせる。


「そうじゃ! 二方面に兵力を割いて何とする! 軍略を知らぬ若造め! 黙っておれ!」


 だが、俺は涼しい顔で二人の罵声を聞き流す。

 そんなことくらい俺もわかっているのだ。


 柴田殿と佐久間殿は自説を否定され怒っているが、殿は俺の動じない態度を見て興味津々だ。


「爽太よ。権六たちの言うことももっともじゃ。何か策があるのか?」


「はい。三河の松平家と同盟を結びます」


「なにっ!?」


 殿が驚き、一瞬呆けた表情をした。

 重臣方が騒がしく言葉を放つ。


「正気か!?」


「松平とは、先達て戦をしていたのだぞ!」


「同盟を結べるわけがなかろう!」


「この阿呆をつまみ出せ!」


「静まれ!」


 重臣方の騒ぎを殿がピシャリと抑えた。

 俺は殿に一礼し続きを話す。


「松平と同盟を結び、松平を今川の盾といたします。そして、我が織田家は美濃攻めに注力するのです。それがしの策は尾張と三河の同盟です!」


「ふーむ……」


 殿は腕を組んで考え出した。


 俺の知る歴史では、桶狭間の戦の後、織田家と松平家は同盟を結ぶ。

 松平家との同盟は夢物語ではなく、実現可能な策のはずだ。


 筆頭家老林秀貞殿が声を上げた。


「いや、それは無理だろう」


 林殿に場の視線が集まる。

 林殿はトントンと床を指で叩きながら、面白くなさそうな顔で俺をジロリと見た。


「松平は今川に臣従しておる。松平が今川を裏切るとは思えんわ」


 林殿のねちっとした口調に俺は嫌悪感を覚えた。


 この人はクセのある人物で、殿の後見人であったにも関わらず、殿の弟の織田信行を擁立しようとしたのだ。

 殿は『大うつけ』と呼ばれて奇行が目立ったから、林殿が弟の織田信行に織田家を継がせようとした気持ちもわからないではない。


 だが、一度殿を裏切っておいて、しれっと筆頭家老に収まっているのだ。

 面の皮が厚いのか、恥を知らぬのか……。

 とにかく林殿は要注意人物だ。


 俺は林殿に軽く頭を下げてから、やんわりと反論した。


「筆頭家老殿のご意見はごもっともです。松平は長らく今川に膝を屈しておりました。しかし、先の戦で今川義元が討たれた後はどうでしょう? 松平元康殿は駿府に出仕せず、無人の岡崎城に入りました」


「それは……、今川軍が撤退したから、三河の岡崎城を抑えるためではないか?」


「なるほど、そうかもしれません。しかし、それがしは、少々違う読みをしております」


 殿が好奇心を抑えられなくなったのか、俺と林殿の会話に割って入ってきた。


「爽太! 何じゃ? 早う申せ!」


「松平元康殿は今川家から独立を画策していると、それがしは読んでいます。織田家と同盟を組む可能性はあるのではないかと愚考いたします。確か……、殿は松平元康殿と面識がございましたな?」


「うむ! 元康が幼少のみぎり織田家に逗留しておっての。竹千代、吉法師と呼び合った仲よ」


「ならばますます可能性がございますね。竹馬の友からの誘いとあらば、松平元康殿も無下には出来ますまい。少なくとも話ぐらいは聞いていただけるのでは?」


「そうじゃな!」


 殿は俺の策に乗り気になった。

 だが、林殿が慌てて止める。


「いやいや! 殿! お待ちを!」


「何じゃ? 林?」


「松平との同盟が叶ったとして、なぜ美濃を攻めるのです! 美濃の斎藤義龍は、なかなかの戦上手! 美濃の国人衆も手強い!」


「うむ。美濃が強いのは、わかっておる。何度か手合わせしておるからの」


「ならば美濃に攻め入るのは悪手では? 弱っている今川を攻める方がマシでは?」


「爽太!」


 殿が問答を面白がっている。

 俺に回答を丸投げしてきた。

 俺は林殿を論破すべく、殿のご指名に応える。


「今川攻めは危険です。最初は上手く行くでしょう。今川家は主たる武将が多数戦死いたしました。兵はおれども率いる将が不足しているので、織田家の攻勢を今川家は受けられますまい」


「ほれ! 私は柴田殿や佐久間殿に同調するつもりはないが、今川攻めの方が理にかなっているではないか!」


 林殿がここぞとばかりに力を込める。

 そして、柴田殿佐久間殿ら主戦派もウンウンとうなずく。


 俺は林殿にニコリと笑って、林殿の論をバッサリ切る。


「甲相駿三国同盟をお忘れですか?」


「あっ……!」


 林殿はバカではない。

 俺の指摘で、すぐ気が付いた。

 だが、柴田殿と佐久間殿は顔を見合わせている。

 脳筋どもは、わかっていないな。


 俺はゆっくりと噛んで含めるように、今川攻めがダメな理由を述べる。


「甲斐の武田家、相模の北条家、そして駿河の今川家は同盟を結んでいます。我ら織田家が攻め込み今川家を圧倒すれば、今川家は武田家と北条家に助けを求めるでしょう。三国同盟は婚姻で結ばれておりつながりが強固です」


 広間がシーンと静まりかえった。


「今川攻めが上手く行くのは最初だけです。すぐに武田家と北条家の援軍が現れるでしょう。今川、武田、北条の連合軍を相手取るのは無謀。下手をすれば、我らが逆撃をくらうかもしれません」


 俺の丁寧な説明に柴田殿と佐久間殿はうつむいてしまった。

 いや、お二人の面子を潰すつもりはないのだが、俺の知る歴史と違う行動をとられても困るのだ。

 少なくとも序盤は歴史通り進んでオーケーなのだから。


 柴田殿と佐久間殿は退いたが林殿はまだ納得しない。

 大声を上げ広間の床を手で叩く。


「だが、なぜ美濃なのだ! 納得の行く説明をいたせ!」


 俺は林殿から視線を外し、真っ直ぐ殿に向いて言上した。


「天下の道だからです!」

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