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戦国おっさん! ~タイマーと現代知識チートで、織田信長の軍師になります  作者: 武蔵野純平
桶狭間の戦編

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第15話 野盗狩り(小頭の弥平と甚八)

 ――翌日。


 俺たち浅見隊は野盗狩りに出発した。

 隊列を組み清洲城を出て東へ歩く。


 こうして改めて城外に出ると、現代とは全く違うのだなと実感する。


 清洲城があるのは現代の名古屋近辺、つまり濃尾平野に位置している。

 濃尾平野は関東平野の次に広い平野だ。

 現代日本なら俺が歩いているあたりは、オフィス街や住宅街なのだろう。


 だが、今は戦国時代。

 丘陵や森が沢山ある。

 野盗が隠れるには、絶好の場所に思える。

 織田領は治安が良いイメージを持っていたが、現実はそうでもないらしい。

 食いっぱぐれた農民や敗戦で流浪した兵士が野盗になってしまうそうだ。


 浅見隊の先頭は俺と又左が歩いている。


 野盗が出没している場所は池田恒興殿に聞いてあるが、俺は出歩いたことがないのでわからない。

 又左に告げると『ああ、あそこね』と近所のコンビニに出掛けるノリで歩き出した。


「又左、道はわかるのか?」


「ああ、任せろ。領内は殿と一緒にガキの頃から遊び回ったからな」


 又左のマイルドヤンキー発言を聞きながら、俺は野盗狩りについて考える。


「なあ、又左。本当に今の状態で野盗狩りに出て大丈夫なのか?」


「おう! 大丈夫だ!」


 又左の安請け合いかなあ……と心配になる。

 俺は初めての実戦なので、少々ナーバスになっている。


「装備は青竹の長槍だけだぞ?」


「野盗相手なら十分だ」


 俺と又左は槍と刀を装備しているが、浅見隊足軽の装備は青竹の長い竹槍だ。

 金がないから装備を揃えられないのだ。


「爽太。大丈夫だ。いざとなったら俺が暴れる」


「そうか。頼もしいぞ!」


 又左は実戦経験が豊富な男だ。

 こういう時のために指南役として雇ったのだから、野盗が強い時は頼りにさせてもらおう。


 俺は浅見隊を二組に分けた。

 五人一組で、うち一人がリーダーだ。

 組のリーダーを小頭という。


 小頭は弥平と甚八だ。

 二人とも実戦経験があり、刀を腰に差している。

 隊員でまともな装備をしているのは、小頭の二人だけだ。


 いや、刀だけではまともとはいえない。

 マシな装備だな。


 弥平は、戦国時代の人にしては体が大きい。

 百七十センチありそうな大柄な体型だ。

 農家のせがれで、兄が威張っているのが面白くなく、家を飛び出し兵士になったそうだ。


 初戦は負け戦で逃げたらしい。

 だから弥平のタイマー評価は悪い。


 だが、冷静に考えれば、負け戦で雑兵が逃げるのは仕方がない。

 逃げなきゃ殺されるのだ。


 俺のことは『御大将』と呼んで敬意を払ってくれるし、実戦経験があり体も大きいので隊員に頼りにされている。

 小頭にはピッタリだ。


 もう一人の小頭は甚八。

 こいつは町でフラフラしていた口で、現代風にいえばチンピラだろう。


 目つきが鋭く愛想がない。

 体格は並だが、根性がありそうなところが気に入っている。


 甚八も実戦経験ありで、負け戦で逃げ組。

 当然、タイマー評価は悪い。


 だが、腹が据わっているし、俺の命令には忠実だ。

 そして、ちょっと怖い感じなので、浅見隊が引き締まるかなと思い小頭にした。


 小頭に指名したら嬉しかったらしく、俺のことを『兄貴』と呼び出した。

 まあ、良いんだけど。

 身分的に大丈夫なのかなと思ったが、又左が何も言わないので『兄貴』で良しとしている。

 忠誠心が高まったなら言うことない。


 浅見隊の十人は、俺に懐いてくれている。

 腹一杯、三食食べさせている甲斐がある。


 だから、野盗狩りで人員を損ないたくない。


「爽太。そんなツラするなよ。足軽どもが不安がるぜ」


「おっ! スマン!」


 顔に不安な気持ちが出ていたようだ。

 大将たる者、堂々としていなければ。

 俺は胸を張る。


「爽太。野盗狩りは美味しい仕事だぜ」


「そうなのか? どう美味しいんだ?」


「まあ、そのうち分かるよ……おっと! いたな!」


「えっ!? ああ、本当だ!」


 道は森の中に入っていた。

 ゆったりとしたカーブを抜けると、四人の野盗が二人組の行商人を襲っていた。


 野盗の一人が目をギラギラさせて、行商人に刀を振り上げていた。

 行商人は手を上げて『お助け! お助け!』と必死で命乞いをしている。

 他の三人は腕を組み笑っている。


(悪行を楽しんでいやがる!)


 俺は野盗に強烈な嫌悪感を覚えた。


 今は戦国時代だ。

 生活は苦しいだろうし、野盗の四人にも色々な事情があるのだろう。

 だが、盗みや殺しを笑顔で行うのはイカンだろう。


 俺は怒りがわき上がるのを自覚するとともに、冷静な部分も自覚していた。

 俺の冷静な部分が、野盗たちの装備を見る。


(野盗というより山賊だな)


 俺は野盗たちの格好を見て、そんなことを思った。


 四人は着物の裾をまくって動きやすくしているが、装備はバラバラだ。

 刀を持つ者、槍を持つ者。

 胴丸といわれる剣道の胴のような防具を身につけた者。

 装備に統一性は全くない。

 好き勝手に武装しましたといった体だ。


 さらに、野盗四人の体格は俺や又左に劣る。

 俺の目には小学生が刀を振り上げているようにしかみえない。


 野盗の装備と体格を見るに、又左の言う通り俺たちの竹槍装備でも制圧出来そうだ。


 俺はすぐに指示を出す。


「弥平隊! 前へ! 竹槍を振り下ろせ! 甚八隊は行商人を助けろ!」


「御大将! 合点だ!」


「兄貴! 了解!」


 小頭の弥平が弥平組の四人に指示を出す。

 五人がピッチリならんで青竹の長槍を連続で振り下ろす。


「「「「「えい! えい! えい! えい!」」」」」


 弥平組の五人は、ピタリと息を合わせて青竹の長槍を振り下ろす。

 振り上げ、振り下ろすと、空気をぶるんと震わせる。


 青竹の長槍が野盗の頭に当たり、バシン! バシン! と大きな音がする。

 竹はしなるので、見た目以上にダメージは大きい。


「うあ!」

「なんだ!」

「ぐあ!」

「イテエ!」


 野盗も抵抗しようと槍や刀を構えようとするが、青竹の長槍の方がリーチに勝る。

 抵抗できずに野盗の四人は頭を抱えてうずくまる。


「「「「「えい! えい! えい! えい!」」」」」


 弥平は容赦しなかった。

 うずくまった四人の野盗に青竹で打擲を加える。


 その隙に、森の木々の間から迂回した甚八組が行商人を助け出した。


「「「「「えい! えい! えい! えい!」」」」」


 弥平は本当に容赦ない。

 野盗に何度も何度も青竹の長槍を振り下ろす。


「おい、爽太。もう、気を失ってるぞ」


 又左が俺に小声で教えてくれた。

 俺は慌てて指示を出す。


「止めー!」


 俺が指示を出すと、弥平組の五人は攻撃を止めた。

 哀れ野盗四人は、地面に這いつくばりピクピクしている。


 さて、これからどうすれば良いんだ?


「爽太。身ぐるみ剥いで、縄で縛らせろ。清洲城に連れて行けば銭になる」


「おっ! そうか! ありがとう!」


 又左がまた小声でこっそり教えてくれた。

 野盗狩りのOJT――オン・ザ・ジョブ・トレーニングだ。


(タイマーでバイトに行っていた時は、こういうぶっつけ本番が多かったな)


 俺はほんの少し現代日本を懐かしみ、心を戦国時代モードに戻して浅見隊に指示を出す。


「四人の身ぐるみを剥ぎ縄で縛れ! 清洲城に突き出すぞ!」


「「「「「おお!」」」」」


 甚八が先頭を切った。

 一人の野盗に近づくと容赦なく着物を引っぺがす。

 甚八が野盗の着物の中を弄る。


「兄貴! 銭ですよ!」


 甚八がイイ笑顔で銭束を掲げた。


「「「「「おお~!」」」」」


 隊員たちから低く感心した声が漏れ、隊員たちは目の色を変えて野盗に殺到した。


「おお! こいつも銭を持ってるぜ!」


「この胴丸は、まだ使えるぞ!」


「小刀もあるぞ!」


「服も洗えば、まだ着られるな!」


 隊員たちは、喜んで銭や装備品を回収している。

 戦利品である。


 俺は小声で又左に戦利品の扱いを効く。


「又左。銭や装備は、どうなるんだ?」


「爽太の物だ」


「俺の!?」


「野盗を捕らえたのは浅見隊。浅見隊の大将はオマエだろ? だから、爽太の物だ」


 又左が野盗狩りは美味しいと言っていた意味がわかった。

 こうして戦利品が出るのだ。

 銭はもちろん嬉しいし、武器や防具といった装備品が増えるのもありがたい。

 着物だって安くない。

 ボロでもあれば、あっただけ良い。


「なるほど……だから野盗狩りは美味しいのか!」


「そう! でも、手下にも分けてやれよ」


「おう!」


 まず、銭は四分の一を俺、四分の一を又左に、残りの四分の二を浅見隊の隊員で分けることにした。


 装備品は、まず小頭の弥平が胴丸を欲しがったので、胴丸は弥平に。

 小頭の甚八が鉢金を欲しがったので、鉢金は甚八に。

 その他、槍、刀、小刀、着物は、隊員で話し合って分けた。


 戦利品の分配を見て、又左が不思議そうに言う。


「爽太は気前が良いな!」


「そうか?」


 俺としては銭も全員で等分したかったが、俺も浅見隊の維持に経費が掛かっているので、四分の一を取らせてもらった。


 又左にはアドバイス料を渡さないと悪い気がしたので、又左にも四分の一。

 こういう実戦に基づいたアドバイスを教えてもらえるのは非常にありがたいし貴重だ。


「全部自分で取っちまうヤツもいるからな」


「そうなのか? まあ、隊を維持するには銭が掛かるから、全部取ってしまう人がいても仕方がないと思うが……」


「まあな。けど手下は気前が良い大将についてくる。結構、大事だぜ!」


 武将の資質というヤツだろうか?

 俺は現代人だった頃の感覚で、出来るだけ公平に分配しようとしただけなのだが、どうやら悪くなかったようだ。


 浅見隊の隊員たちは。戦利品の分配でまだワイワイやっている。


 すると助けた行商人が近づき頭を下げてきた。


「お武家様! ありがとうございました! あの……お名前を……」


「我々は織田弾正忠家の浅見隊だ。それがしは浅見爽太と申す」


「ありがとうございます! これはお礼です!」


 行商人は、さっと俺に銭を握らせた。

 抜け目ないというか、心得ているというか。


 戦利品の銭に加えて、礼ももらえた。

 正直、浅見隊の維持に懐事情が厳しかったので、ありがたかった。


「よーし! 清洲城に戻るぞ!」


「「「「「おお!」」」」」


 俺たちは、下穿き一丁になった野盗四人を縛り上げ意気揚々と清洲城に凱旋した。


 勝利と戦利品で隊員たちの士気は上がり、俺は気前の良い大将という評価がついたようだ。


 初戦は上々の結果だ!



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