第13話 戦闘訓練~信長の一銭斬り
朝食の後、訓練場へ浅見隊の面々を連れ出し又左を待つ。
これから俺は出仕する。
近侍のお仕事である。
その間、戦闘訓練は又左こと前田利家@槍の又左が見てくれる。
兵士たちがザワついた。
「おい……何だ……あれ?」
「え? ああ?」
又左である。
片手に長槍。そして肩に何かを担いでいる。
又左は訓練場に入ってくると、肩に担いでいる物を地面に下ろした。
「ほれ、持ってきたぜ!」
俺は又左が持ってきた物を見た。
長い青竹である。
「青竹?」
「そうだ。武器がねえって言ってたろ? だから竹槍で稽古する。どうだ?」
「なるほど!」
良さそうだ。
何より金が掛からないのが素晴らしい!
俺は浅見隊の訓練を又左に引き継ぐ。
「全員聞け! これから槍の稽古を行う! こちらは指南役! それがしの弟浅見又左衛門である。又左は槍の名手であるからしっかり稽古をつけてもらえ!」
「へーい」
「わかりやした」
気のない返事である。
これはダメだ。
規律や礼儀のなってない軍など、野盗より始末が悪い。
俺がいた現代社会でも、軍が悪さをしている国があったし、軍とは名ばかりの盗賊のような集団もいた。
俺は厳しい口調で命じる。
「全員整列だ! 並べ!」
「えっ?」
「はあ?」
俺は一人一人引っ張って来て横一列に並ばせた。
そして手本を示す。
「全員俺の真似をしろ! 先生! よろしくお願いします!」
「よ、よろしく?」
「お願いします?」
まったく気合いが入っていない。
というか、礼儀という文化が身についていないのだろう。
鉄は熱いうちに打て!
ここはブートキャンプ――新兵訓練だ。
俺は心を鬼にしてダメ出しする。
「ダメだ! ちゃんと挨拶をしないと昼飯抜きだぞ!」
「うへえ!」
「それは!」
「大将!」
昼飯抜きと告げると、やっと言うことを聞いた。
「「「「「先生! よろしくお願いします!」」」」」
「おっ! おう!」
又左が驚いている。
だが、これくらいやらなきゃダメだ。
何せ織田軍である。
有名な信長の一銭斬りだ。
織田信長が京都に兵を進め『一銭でも盗んだ者は斬る』と自軍に厳しい通達を行った。
京都で織田軍の評判が落ちるのを恐れたのだろう。
兵士の乱暴狼藉を禁じたのだ。
そんな中、織田軍の雑兵が京都の町の女性にちょっかいを出した。
その様子を見た信長は激怒。
その場で雑兵を斬り殺した。
今の殿は、そこまで厳しくはないが、先々織田軍の規律は厳しくなるだろう。
ならば今のうちに規律を叩き込んでおいた方が、浅見隊兵士たちの命を守ることになる。
又左が俺を褒める
「爽太。やるなあ。まだ初日だぜ」
「又左。ビシビシしごいてくれ! 甘やかしてはイカン!」
「あんまり厳しいと兵が逃げるぞ?」
「大丈夫だ。一日三食。たっぷり食わせる」
「三食! 贅沢だな! まあ、それなら大丈夫か。よし! いっちょやるか!」
又左が兵士たちに青竹を持たせ、稽古を始めた。
振り下ろしをひたすらさせている。
長い竹槍は、重さも相応にあるのだろう。
ふらつくヤツもいるが、又左から厳しい叱咤が飛ぶ。
まかせておいて大丈夫そうだ。
又左、後は頼むぞ!





