第10話 浅見隊結成!(足軽採用)
こうして、俺の部隊『浅見隊』に前田利家が指南役として加入した。
戦国ゲームで前田利家は強キャラだ。
現実でも強キャラの匂いがプンプンしている。
俺はかなり期待している。
いずれ前田殿の出仕停止が解けたら、浅見隊からいなくなってしまうが、それまで浅見隊の訓練を指導し、戦に力を貸してくれれば充分だ。
なにせ『槍の又左』の加勢だ。
指南役の給金を払っても、お釣りが来る。
面白いのは、スキマバイトアプリ『タイマー』だ。
指南役募集を停止しようとスマホを触ったら、なんと申し込みをしてきた人物の評価コメントを見られることがわかった!
なるほど。
雇う側だけでなく、雇われる側の評価もあるのだなと納得だ。
ちなみに前田殿の評価はなかなか良い。
■ 前田利家 ■
・非常に強くて頼りになる。
・矢が突き刺さっても戦っていた。色々おかしい。
・足軽たちの面倒見が良い。指揮もまずまず。
・キレやすく短気で困る。
・愛いやつ。
最後の『愛いやつ』は、殿のコメントじゃないだろうか?
殿がスマホを持っているとは思えないので、殿が思っていることがタイマーに反映されているのだろう。
タイマーを管理している神様が何神様か知らないがマメな神様だ。
俺は手を合わせて『ありがとうございます!』と、タイマー神に心から感謝をした。
前田殿は俺の弟『浅見又左衛門』ということになっているので、俺は前田殿を『又左』と呼び捨てることにした。
そして前田殿は俺のことを『爽太』と呼ぶ。
又左の出仕停止が解けるまでの期間限定だが、俺と又左は兄弟だ。
さて、前田殿が加入してから二日後。
いよいよ足軽を採用する日が来た。
募集に応じたのは、五十人。
清洲城の門をくぐった広場に、五十人の男たちが集まっていた。
「又左! 沢山来たな!」
「爽太。良かったな」
俺と又左は腕を組んで五十人の男たちを見る。
ここから十人選ばなくてはならない。
ここに来る前、自室でタイマーの応募者評価を見たが……。
まず未経験者、戦の経験がない者は評価がない。
経験者も二十人ばかりいたが、あまり評価が良くなかった。
・不利になったら逃げやがった!
・大食らいの役立たず!
・口ばかり達者で、戦になったらビビってた。
・槍の使い方がわかってない。
・下手くそ。
こんな感じのマイナス評価ばかりなのだ。
経験者はダメなのだろうか?
だが、未経験者オンリーに決められない。
何せ殺し合いをするのだ。
やはり戦場に立った経験、戦闘経験がある者の方が肝の据わりが良いのではないだろうか?
俺は迷い採用基準を決められないまま、この場に来てしまった。
まず、実戦経験豊富な槍の又左の意見を参考にしよう。
「又左。それがしは戦の経験がないのだ。どういう基準で兵士を選べば良いのだ?」
「まあ、適当で良いんじゃないか? 爽太が気に入ったやつを十人選べよ」
俺は真面目に質問したのだが、極めてテキトーな回答だ。
俺は前を見たまま眉根を寄せ考える。
「……やはり体が大きい者が良いのだろうか?」
「まあ、そうだな。体がデカいと力が強い。だが、小柄ではしっこいヤツも重宝するぞ」
むむ……そうなのか?
背の順で選べば良いというわけでもないか……。
「では、武器や防具を持っている者を優先してみてはどうだろう? 銭が掛からなくて済む」
俺は違う採用基準を提案してみた。
集まっている男たちの中には、槍や刀を持っている者がいる。
胴丸といわれる防具を身につけている者もいる。
武具や防具は、俺が用意してやらねばならない。
金が掛かる。
手ぶらで来た者より、装備を持っている者の方が初期投資が少なくてすむ。
だが、又左は俺の提案した採用基準が気に入らないようだ。
フンと鼻を鳴らした。
「どうかな……。銭が掛からないという見方もあるが、銭で解決出来るともいえるだろ? 銭が足りなかったら殿に借りても良いし、商人に借りても良いんだぜ?」
「なるほど! 確かに!」
そうか!
装備を持っているが見込みのない人より、装備ナシだが見込みのある人を採用した方が良い。
最終目的は戦で勝つ、手柄を上げることだ。
そのために兵士を集め、装備を揃える。
装備のあるなしで判断するのは、最終目的からズレている。
又左の話に感銘を受けたが、採用基準が決まらないままだ。
俺はタイマーの評価に書いてあったことを又左に聞いてみた。
「なあ、又左。戦に行った経験があるヤツが良いのか? だが、不利になったら逃げるようなヤツは困る。どうなんだ?」
「いや、銭で雇う兵だぞ? 不利になったら逃げるに決まってるだろう」
又左が滔々と語る。
どうも雇い兵という存在はビジネスライクらしく、忠誠心もお値段なりで、不利になったら逃げるのが当たり前らしい。
一方、領民兵は領地から連れて来た兵士なので、最後まで踏ん張ってくれる。
逃げたりしたら、領主に罰せられるかもしれないし、『仲間を見捨てて逃げやがった!』と村に帰ってから後ろ指を指されるかもしれない。
「なるほどなぁ」
そういえば、織田信長の兵士より、徳川家康の兵士の方が強かったなんて話を聞いたことがある。
雇い兵か領民兵かの違いなのかもしれない。
俺が首をひねっていると、又左がスパンと言い切る。
「色々考えてもしょうがねえよ。いいか? 爽太はこれから十人の兵士と長い時間を過ごし、命をかけて一緒に戦うんだ。だから一緒にいて苦にならなそうなヤツを選べ。少なくとも、嫌なヤツを選ぶな」
又左の言葉がストンと腹落ちした。
なるほど、最初に又左が『適当に選べ』と言ったのは、『気の合いそうなヤツを選べ』、『肌の合うヤツを選べ』ということか。
俺はアレコレ考えるのをやめて、自分の感覚で選ぶことにした。
まず、何となく嫌だなと思う者は帰ってもらった。
目つきがねちっとした感じ、嫌な雰囲気、無分別に乱暴そうな者は弾いた。
そして、気の合いそうなヤツ、話しやすそうなヤツ、頼りになりそうな雰囲気、楽しそうな雰囲気とフィーリングで十人選んだ。
俺が選んだ十人は、てんでバラバラだ。
体の大きいの小さいの。
若い人もいれば、中年もいる。
刀を差している者もいれば、装備がない者もいる。
共通しているのは、俺が良いと思った。
それだけだ。
だが、そこが重要。
「又左、この十人でどうだろう?」
「ん~、良いんじゃねえかな!」
又左がスッと俺に近づき耳元でささやいた。
「爽太。さすがだよ。間者っぽいヤツは、全て弾いてたぜ」
「えっ!? そうなの!?」
又左は怪しいヤツをチェックしていたのか!?
全く気が付かなかった!
後でタイマーの応募者評価欄見返してみよう。
又左に感謝しつつ、俺は採用面接を終了しようと、集まった男たちに大きな声で話しかけた。
「この十人を雇うことにする! みなご苦労であった! また、兵を集める時は参じてくれ!」
解散である。
俺が雇うと決めた十人は、得意げな顔をする者もいれば、ホッとした表情をする者もいる。
選に漏れた者たちは、門から帰って行く。
不満を漏らす者はいないが、がっかりしている者が多い。
仕事にあぶれているのだろうか。
みなが帰る中、一人の少年が俺に近づいて来た。
「ちょっと待ってくれよ! オイラも雇ってくれよ!」
少年は俺の前に飛び出し、必死に頼む込む。
「なあ! アンタが大将だろう? 何でもやるからさ! 俺も雇ってくれよ!」
うーん……。
実はこの少年を採用しようか迷ったのだ。
何となくなんだが、笑顔が真っ直ぐで良い感じだなと思った。
だが、体は小さいし、まだ幼い。
さすがに戦には連れて行けないと思い選外としたのだ。
「なあ、なあ! 頼むよ!」
雇った兵士の一人が、少年の首根っこをむんずとつかんだ。
「こら! 大将に失礼だろ! お侍様だぞ! それにオマエみたいな小さなガキが戦場で役に立つわけがねえだろう!」
「ふん! アンタより俺の方が役に立つさ! 体のデカさが強さじゃないんだ!」
「あ? 何だと!」
だが、強面の兵士に凄まれても少年はビビらなかった。
タンカを切るとは良い度胸だ。
隣の又左は、ニヤニヤしてこの状況を楽しんでいる。
さて、どうするかな……。
俺は少年に話しかけた。
「童、名は?」
「名前なんてねえよ」
「親は?」
「知らねえ。ずっと一人だ」
そういうと少年はうつむいた。
うーん、気の毒だな。
「大将! 信じちゃいけませんぜ。こういうガキは同情を引こうと嘘をつくんでさぁ」
「嘘じゃねえよ!」
兵士に突っ込まれて、少年はムキになって否定する。
周りの兵士たちは、自然と笑っている。
俺はオヤと思った。
少年がいることで、何だか場が和んだ気がするのだ。
マスコットキャラクターみたいな?
それとも擬似的な子供や弟みたいな感じか?
この子を雇うのは、ありかもしれない。
俺はフッと笑って少年に申し出た。
「童。下男としてなら雇おう。下男で良いか?」
下男は雑用係だ。
下女を雇うが、もう一人くらい使いっ走りになる少年がいても良いだろう。
少年は腕を組んでウーンとうなりだした。
「うーん……下男か……。オイラは戦に行って大活躍したいんだけどな……」
この言い草に俺たち全員吹き出してしまった。
「ブッ!」
「プッ!」
「ぶわはははは!」
「なーに生意気言ってやがる! 十年早いぜ! ハハハ!」
「何だよ! 笑わなくても良いだろう! ホントにオイラは戦で活躍するんだからな!」
「あー、わかったわかった」
口の達者なヤツだ。
だが、悪くない。
俺は男たちを見回し高らかに宣言した。
「よし! オマエたちは、これから浅見隊だ! よろしく頼むぞ!」
「「「「「おう!」」」」」





