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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1898年、サンクト・ペテルブルク
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頼まれごと

「おお、そうだ、一つ頼まれてくれねえか」


「内容にもよりますが」


 たとえば“この爆弾を王宮に”などと言った頼み事なら無理だ。

 目の前の男には、重々しいことでも気軽に頼みかねない雰囲気があった。


「大したことじゃねえ。エフゲニーによろしく言っておいてくれ」


「――王室主治医の、ですか?」


 確認するように、僕。

 正直なところ、かなり意外ではあった。

 いったい、どう言うつながりがあるのだろう。


「それは構いませんが……」


「ああ、ミハイルで通じるさ。奴とはペテルブルク(ピーテル)で同窓だったからな」


 その名前には聞き覚えがあった。

 モスクワか、それともサンクト・ペテルブルクか。

 ロシアで一、二を争う、名門中の名門大学だ。

 恐らくは、この19世紀末でも。


「一応聞きますけど、これ、何かの合図とかじゃないですよね?」


「まあ、言った瞬間死ぬようなことは無えよ」


 おどけたように、男。

 少しだけ、僕は考える。

 顔見知りに、単に「よろしく」を伝えるだけ。

 これより簡単な頼まれごとはと言うと、かなり考えづらい。


「分かりました」


「おお、すまねえな。今度こそ、じゃあな」


「――ええ」

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