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うなずき
殺気も剣呑も、嘘のように消えて。
男の見る目は、不思議に穏やかでさえあった。
いったい何が、目の前の男をそうさせたのだろう。
あまりに一方的な展開。
僕の方はと言うと、どうにもついて行けない。
「――いくつか、お訊ねしてもいいですか」
少しでも間を取ろうと、僕。
「おいおい、質問に質問で返す気か? ――まあいいさ、俺の方に答えるつもりなら、ちったあ聞いてやるよ」
どの道、腕力ではかないそうもない。
今の僕にとって、悪くない取引に思える。
「いいですよ」
「誓いだぜ?」
ほんの少しだけ考える。
いや本当は、意地で隠すほどのことでもないのだ。
ここは素直に、応じてみせるのが得策だろう。
「ええ」
嘘偽りなく、僕はうなずく。




