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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1898年、サンクト・ペテルブルク
70/350

持ったもの

「どういう意味です?」


 宮廷の祝祭に招かれてはみたものの。

 あくまで客観的に見て、今の僕に金以外の持ち物があるとは思えなかった。

 一財産こそないものの、襲われても不思議ではない。

 逆に言えば、その程度の懐はあった。

 それが目的でないとしたら、いったい何なのか。


「なあ、同志(タヴァーリッシ)


 耳障りな言葉を、男は繰り返す。


「こちとら、活動資金(・・・・)にゃ別に不自由してねえんだ。でなきゃ、おちおち先行投資(・・・・)も出来ねえ」


 活動資金? 先行投資?

 妙な生々しさに、僕の手から汗がにじむ。

 深夜前、氷点下5度前後と言ったところだろうか。

 特別に寒い訳ではない。

 この程度の寒さなら、手が凍ることはない。


「――他人を先物扱いする人とは、今後お近づきになりたくないですね」


「先物とは、ちったあ知識的階級(インテリゲンツィア)じゃねえかい。悪くねえ」


 言って、男は懐から何かを取り出す。


「はは、そう警戒するなや」


 平たいガラス瓶には、無色の液体が見える。

 この季節、手軽に持ち歩ける飲み物はそう多くない。

 男が蓋を開けても、何が匂うでもない。

 限りなく純粋なアルコールに近い酒――ウォトカだ。

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