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持ったもの
「どういう意味です?」
宮廷の祝祭に招かれてはみたものの。
あくまで客観的に見て、今の僕に金以外の持ち物があるとは思えなかった。
一財産こそないものの、襲われても不思議ではない。
逆に言えば、その程度の懐はあった。
それが目的でないとしたら、いったい何なのか。
「なあ、同志」
耳障りな言葉を、男は繰り返す。
「こちとら、活動資金にゃ別に不自由してねえんだ。でなきゃ、おちおち先行投資も出来ねえ」
活動資金? 先行投資?
妙な生々しさに、僕の手から汗がにじむ。
深夜前、氷点下5度前後と言ったところだろうか。
特別に寒い訳ではない。
この程度の寒さなら、手が凍ることはない。
「――他人を先物扱いする人とは、今後お近づきになりたくないですね」
「先物とは、ちったあ知識的階級じゃねえかい。悪くねえ」
言って、男は懐から何かを取り出す。
「はは、そう警戒するなや」
平たいガラス瓶には、無色の液体が見える。
この季節、手軽に持ち歩ける飲み物はそう多くない。
男が蓋を開けても、何が匂うでもない。
限りなく純粋なアルコールに近い酒――ウォトカだ。




