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皇后と宮廷
今は本当に19世紀末なのだろうか。
そう目も耳も(もちろん舌も)疑わせる、華やかな宴だった。
まさにそこだ、僕が乗り切れなかったのは。
あの一帯は、あまりにも浮き世離れし過ぎていた。
アレクサンドラ皇后との、ごく短い会話を思い出す。
控えめに言って、皇后は宮廷に打ち解けていないようだった。
たぶん、そのこと自体は好ましい。
変化の時節には、時代錯誤に染まっていない方がいい。
「祭りの輪の中には参加されないのでしょうか?」
僕と同年代であるとの、少しばかりの気安さもあった。
非礼を承知で、僕は訊ねていた。
突然の質問に、皇后はとがめるでもなく、心底不思議といった表情で返事をくれた。
ロシア語に馴染み切れない者ならではの、たどたどしい発音で。
「なんのため? もっと噂を聞くため?」
言われて僕は、曖昧な笑みでその場を去ることしかできなかった。
皇后は宮廷に打ち解けていないようだった。
たぶん、そのこと自体は好ましいのだろう。
けれども。
今さらのように疑問が湧く。
皇后が打ち解けていないのは果たして、宮廷だけなのだろうか。




