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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1898年、サンクト・ペテルブルク
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皇后と宮廷

 今は本当に19世紀末なのだろうか。

 そう目も耳も(もちろん舌も)疑わせる、華やかな宴だった。


 まさにそこだ、僕が乗り切れなかったのは。

 あの一帯は、あまりにも浮き世離れし過ぎていた。


 アレクサンドラ皇后との、ごく短い会話を思い出す。

 控えめに言って、皇后は宮廷に打ち解けていないようだった。

 たぶん、そのこと自体は好ましい。

 変化の時節には、時代錯誤に染まっていない方がいい。


「祭りの輪の中には参加されないのでしょうか?」


 僕と同年代であるとの、少しばかりの気安さもあった。

 非礼を承知で、僕は訊ねていた。


 突然の質問に、皇后はとがめるでもなく、心底不思議といった表情で返事をくれた。

 ロシア語に馴染み切れない者ならではの、たどたどしい発音で。


「なんのため? もっと噂を聞くため?」


 言われて僕は、曖昧な笑みでその場を去ることしかできなかった。


 皇后は宮廷に打ち解けていないようだった。

 たぶん、そのこと自体は好ましいのだろう。


 けれども。

 今さらのように疑問が湧く。

 皇后が打ち解けていないのは果たして、宮廷だけなのだろうか。

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