伝え方
「あくまで仮に、ですが」
くどいほどに前置きし、僕。
これが“甘さ”だけだったとは言わない。
いくばくかの保身もあったのは確かだからだ。
どうにもならない状況で頼られ、失望され恨まれることへの恐れも。
恐れは恐れを生み、率直を遠ざける。
そのことを僕は、いま否応なく学んでいた。
「お子さんの血があるとき、なかなか止まらなかったとします。そしてそれが、たびたび繰り返されたとします――大変に申し訳ありませんが、こうなると僕の知る術はほとんどありません」
一息だけ置き、僕は続ける。
「なので、それ以前に対処するべきです。つまり、出血自体を起こりづらくする環境――なるべく温暖で、テーブルや椅子は可能な限り低く、階段や段差もほとんど存在しないような――そんな環境でお育てするべきです」
無理難題に近いのは百も承知だった。
エフゲニー氏のすがるような目に、僕は少しだけ目を背ける。
全ロシアの世継ぎとして生まれるであろう皇子。
その育ての館が、度をこして質素であったなら。
数々の噂を避けることはできまい。
偶然でも運命でも、はたまた力でもいい。
知識単体だけでは、どうにも無理なことはあるのだ。
そして僕には、“どうしようもない”と判断するだけの知識を、僕の来歴を伏せた上で伝えきる自信はなかった。




