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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1897年、グルジア
60/350

伝え方

「あくまで仮に、ですが」


 くどいほどに前置きし、僕。

 これが“甘さ”だけだったとは言わない。

 いくばくかの保身もあったのは確かだからだ。

 どうにもならない状況で頼られ、失望され恨まれることへの恐れも。


 恐れは恐れを生み、率直を遠ざける。

 そのことを僕は、いま否応なく学んでいた。


「お子さんの血があるとき、なかなか止まらなかったとします。そしてそれが、たびたび繰り返されたとします――大変に申し訳ありませんが、こうなると僕の知る術はほとんどありません」


 一息だけ置き、僕は続ける。


「なので、それ以前(・・・・)に対処するべきです。つまり、出血自体を起こりづらくする環境――なるべく温暖で、テーブルや椅子は可能な限り低く、階段や段差もほとんど存在しないような――そんな環境でお育てするべきです」


 無理難題に近いのは百も承知だった。

 エフゲニー氏のすがるような目に、僕は少しだけ目を背ける。


 全ロシアの世継ぎとして生まれるであろう皇子。

 その育ての館が、度をこして質素(・・)であったなら。

 数々の噂を避けることはできまい。


 偶然でも運命でも、はたまた力でもいい。

 知識単体だけでは、どうにも無理なことはあるのだ。

 そして僕には、“どうしようもない”と判断するだけの知識を、僕の来歴を伏せた上で伝えきる自信はなかった。 

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