言い訳
「――失礼、何でもございません」
極力平静なつもりで、僕は述べる。
我ながら、下手な言い訳もあったものだと思う。
両者からの視線がひどく痛い。
片や“なぜそれを”、片や“何を余計なことを”だ。
「それは何か、根拠があることなのですか?」
あくまで穏やかに、彼女。
知識のない分野で話をすり合わせようにも、かえって墓穴を掘る可能性が高い。
つまり、自分でどうにかしろと言うことだ。
蒔いた種を刈り取れるのは、しょせん自分でしかない。
「はい――英国、ヴィクトリア女王のお話は伺っておりました」
そう僕は切り出す。
女王はもちろん、ロシア王家の祖先でもある。
「女王陛下のご血筋で、ご子息にだけ奇妙な病が流行っているとの話は。それと、メンデル氏の研究がございます」
聞き覚えがないのか、二人の表情が説明を求めるものに変わる。
言いながら、僕は思い出していた。
今このとき、メンデル氏の遺伝論文は再発見されていない。
たぶん、遺伝子という命名もまだのはずだ。
と言って、エンドウ豆の実験を人に当てはめるのは抵抗がありそうだ。
「血筋で受け継がれる性質もある、と言うのがその研究の結論です。今のところあまり知られてはいませんが」
この“今のところ”には少しだけ力を込めた。
エフゲニー氏にとっては“知る人ぞ知る”に、彼女にとっては“将来では有名になっている”となるように。




