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興行
ひとまず、一人だけで済んでよかった。
それが当初の僕の、偽らざる本音だった。
一人残らず無事なのが最善ではあったけど、悪くはない結果だ。
左腕を使う力仕事はむずかしくなった、でもそれ以外ではまだやっていける。
けれども。
正直なところ、彼女に罪悪感を持たせてしまったのは予想外だった、
村の子供たちも彼女の同年代も、僕にはほとんど、どうでもよかった。
でも彼女が悲しむこと、それだけは本当に辛いところだった。
このままの彼女を見ていたい。願わくば、長い時をともに。
ほとんどそれだけのために、僕は力を尽くしていたと言うのに。
いったい、どうすればよかったのだろう。
僕が彼女の悲しみを見ないと言うだけなら、僕がもっと深刻な――あるいはこの上なく楽な――“被害”を受けていればよかったのだろうけど。
もちろん、その選択肢へむかうことは考えもしなかった。
あのとき、僕はどうすればよかったのか。
いくら考えてみても、いまだによく分からない。




