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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1896年、グルジア
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旅行

「いえ、こちらこそ済みません。過剰反応かとは思いましたが」


 そのとき、僕の虫の居所が悪かったのは確かだ。

 けれども、気に食わなかったのもまた本当だった。

 都会には――あくまで19世紀末の、だが――いろいろな物がある。

 立派な建物がある。列車がある。大きな、年中開かれている市場がある。


「何しろ、田舎にでは医者一人見つけるのも一苦労でしてね」


 何より、街には病院がある。

 具合の悪くなった子供を、すぐ連れて行ける場所に病院が。

 必然、きちんと効果のある薬が用意されてもいる。

 もちろん保険制度がまだ整備されていない以上、基本的にかなり高価ではあったけれど。


 ――そう、“薬”を求めるために、僕は馬車に乗っている。

 より正確には、薬の原材料となるものを手に入れるために。


 今の今まで、僕は何度も空振りを繰り返していた。

 今回の噂は、首都トリビシ近郊でのものだ。

 たくさんの牛が熱を出しているという噂。

 僕の目的は、病気にかかったその牛だった。

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