疑義
「……ずいぶんと、親切ですね」
決して感謝の意ではない。
親切に過ぎるとの、それは警戒。
宰相として、恐らくあり得ない類の親切さだった。
相手のお人好しで済ませるのは、いかにも不用心に過ぎる。
「あなたの本当の目的は何でしょうか? 端的に聞かせて頂けるのであれば、僕としても素直に受け取れる……かも知れません。もちろん、お互いに気が向けば、の話ですが」
視線を合わせながら、老宰相の身体、その周縁を見る。
赤でも黒でもない、淡く澄んだ青。
つまるところ、策を弄する様子には見えない。
「――負け戦を、私はしない質でね」
「では、この度の戦争はどうでしょう?」
「当初から反対をしていたとは言っておこう。止められなかったことを負け戦というのであれば、甘んじて受ける」
表情を伺うまでもない、ただただ本当だろう。
きちんと見えてさえいれば、無謀な戦争と見当がつく。
そして何より、敗れた際の動揺が大き過ぎる。
わざわざ、艦隊を世界一周させてまでの敗戦は。
「程なく、私は議会の長になる」
「首相に。存じております」
「――そうだったな。君が見えているのは、どうやら本当らしい」
「まだ信じていなかったのですか。今の今まで……」
「100%ではなかったと言うだけだ。今の反応で、残り1%が埋まったよ。述べたことのない地位の名を、他人が知る由はない」
淡々と。
事実を確認するように、老宰相。
「――ジョゼファ氏のことだったな」
「あなたの真意のことも」
「関係あることだよ、落ち着いて聞きたまえ」
「……失礼しました。どうぞ続きを」
いささかの思案。
ほどなくの口火。
「もはや金の時代でもあるまい。と言って銀でも銅でもない。鉄の時代には、鉄の時代なりの歩みがあるはずだ」
「皇帝はもはや相応しくない、と」
「制度としては、そうなる」




