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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、ポーツマス
336/350

疑義

「……ずいぶんと、親切ですね」


 決して感謝の意ではない。

 親切に過ぎるとの、それは警戒。

 宰相として、恐らくあり得ない類の親切さだった。

 相手のお人好しで済ませるのは、いかにも不用心に過ぎる。


「あなたの本当の(・・・)目的は何でしょうか? 端的に聞かせて頂けるのであれば、僕としても素直に受け取れる……かも知れません。もちろん、お互いに気が向けば、の話ですが」


 視線を合わせながら、老宰相の身体、その周縁を見る。

 赤でも黒でもない、淡く澄んだ青。

 つまるところ、策を弄する様子には見えない。


「――負け戦を、私はしない質でね」

「では、この度の戦争はどうでしょう?」

「当初から反対をしていたとは言っておこう。止められなかったことを負け戦というのであれば、甘んじて受ける」


 表情を伺うまでもない、ただただ本当だろう。

 きちんと見えてさえいれば、無謀な戦争と見当がつく。

 そして何より、敗れた際の動揺が大き過ぎる。

 わざわざ、艦隊を世界一周させてまでの敗戦は。


「程なく、私は議会の長になる」

「首相に。存じております」

「――そうだったな。君が見えて(・・・)いるのは、どうやら本当らしい」

「まだ信じていなかったのですか。今の今まで……」

「100%ではなかったと言うだけだ。今の反応で、残り1%が埋まったよ。述べたことのない地位の名を、他人が知る由はない」


 淡々と。

 事実を確認するように、老宰相。


「――ジョゼファ氏のことだったな」

「あなたの真意のことも」

「関係あることだよ、落ち着いて聞きたまえ」

「……失礼しました。どうぞ続きを」


 いささかの思案。

 ほどなくの口火。


「もはや金の時代でもあるまい。と言って銀でも銅でもない。鉄の時代には、鉄の時代なりの歩みがあるはずだ」

皇帝ツァーリはもはや相応しくない、と」

「制度としては、そうなる」

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