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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、上海
303/350

真相

 目の前の赤子。その母親のこと。

 何とも、らしい言い回しだった。

 決して自分のこととは言わない。

 あくまでも、母親のこと。

 そうやって他人事のように、ここ数年を語るつもりなのだろう。

 僕のいなかった、ここ数年のことを。

 僕は頷き、そのまま促す。


「聞くよ。その子の――その子の、母親のことを」


 それから、彼女は話した。

 宮廷で見初められたこと。

 異国へ嫁いだこと。

 三人の娘が生まれたこと。

 やっと跡継ぎとして、この子が生まれたこと。

 そして今、やむなく預かっている(・・・・・・・・・・)こと。


「――これが今のロシアのこと。そしてこの子、この子の母親のこと」


 ……気づかなかった。

 それが素直な感想だった。

 ほとんど、そうとしか言いようがない。

 母親が誰かなんて決まっているはず。

 その思い込みを見事に突かれた。

 いや、突かれたとの感情こそ、まさに思い込みだったのだ。


 ヒントは? 思えば確かに、いくらでもあった。

 たとえば、直接は乳をあげていないこと。

 これはある意味、当たり前の話だ。

 たとえば……やけに敷き詰められた毛布。

 あれはきっと、怪我をさせないためだろう。

 一度怪我をすれば、長く後を引く。

 たとえそれが、単なる内出血であっても。


「いや……とんだ道化だね……」


 思わず、自嘲が入る。

 いわば錯覚で、無謀な勝負を挑んだのだ。

 魔女相手の、無策同然の賭けを。

 ただただ、ひと言聞けば良かったのに。


「遅くなったけど…‥その子の名前、聞いていいかな?」

「ええ」


 彼女は頷き、答える。


アレクセイ君(アリョーシャ)――アレクセイ・ニコラエヴィチ・ロマノフ(・・・・)

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― 新着の感想 ―
これはつまり、寝取られたとかではないと?!
2025/01/20 17:36 アレクさん
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