試合9
何を言っているのかと、その時は思った。
――マークに関係なく。
トランプの13種類、1から13までの数字札。
そう思い込ませるために、絵柄を揃えたのだから。
ゆえに今、マークの言及に意味などない。
いったい、何を言っているのかと。
思いつつ、僕は手札を開ける。
一瞬見て目を閉じ、頭の中で並べ替える。
すべてがスペードの絵柄。
順に、A、3、9、T、J、Q。
――すなわち、ジョーカーは手元にない。
13枚。どの数字札と入れ替わったかは分からない。
手札が丸見えになるほど、操作してはいない。
それはもはや、勝負ではないと思う。
そもそもそこまで操作すれば、おそらく見破られるだろう。
けれども、いま異物があることは確かだ。
目を開け、彼女を見る。
扇状に6枚の手札を広げ、静かにこちらの反応を待っている。
こちらもわずかに伺う。特別な反応は見当たらない。
ならば。
伏せられたカードは、一種類に決まっていた。
……しかし。
しかし、だ。
そこまで考えて、僕は思い至る。
思い至った可能性が、宣言を思いとどまらせる。
「どうしたの」
「……迷っててさ」
「素直ね」
「最後のゲームだから、ね」
13枚。そこではたしかに、マークの意味がない。
スペードマークの13種類。
そんな、通常の13種類であれば。
その示唆に、僕はたじろぐ。
何も言われぬ中、不意打ちに近い状況での平静。
不意打ち。これはそう、不意打ちでしかない。
仕掛けられた状況下での平静。
それは果たして、可能なのか?
不可能。
いくら何でも、不可能のはずだ。
悲鳴めいた願望が思考に交錯する。
あってはいけない不純物が。
悲鳴をこらえ、僕は宣言する。
「――ジョーカー」
「ふうん――」
それが当然であるかのように。
目の前の、魔女は答える。
「そう言う名前なんだ」




