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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、上海
298/350

試合8

 トランプとは何か。

 簡潔に思えるこの問いは、案外簡単ではない。

 なぜか。国と地域で、合計枚数さえ違うからだ。

 たとえば、ロシアでは36枚。

 僕のいた、つまりおよそ100年後の郷里では52枚。

 そして4戦目までで使ったのは52枚、エースからキングまで13種類4セットだ。


 52枚。

 これは明らかに、ロシアで遊ばれているものとは違う。 

 ならば、この形式は何を意味するか。

 ロシア式以外のトランプの承認、そう僕は考える。

 それはそうだろう。

 2から5のカードの存在は、36枚式の明確な否定なのだから。


 ロシア式以外のトランプを使ったゲーム。

 けれどもその明確な種類について、確認してはいない。

 ならば、とまた僕は考える。

 暗に承認しているのは、何も52枚式だけではない。


「……じゃあ、僕の番だね」


 第5回戦。最終回の先攻は、4回戦目で負けた僕だ。

 遊びはない、するつもりもない。

 一枚目、単にそのカードを宣言さえすればいい。

 どうしても気がはやる僕を、不意の泣き声が押しとどめる。

 彼女のかたわら、揺りかごの中からの。

 

「すぐ済むわ」


 揺りかごに手札を伏せ、頬に手をやりあやす。

 慌てるでも苛立つでもない。

 自然で、慣れた仕草だった。

 どんな気まぐれにも慣れているといった風な。

 ほどなく、赤子は泣き止む。


「……いい子だね」


 素直に思い、口にする。

 心なしか、彼女の頬も緩んだ気がした。


「仕事だから」


 淡々さのなか、互いの微笑みがにじむ。


 ――やっと、だ。

 同時に、僕は思う。

 やっと、まともに聞けるときが来る。

 この子の父親について、聞く口実ができる。


 あやし終わり、彼女はふたたびカードを手に取る。


「――お待たせ。さあ、あなたの番。あなたには」


 先ほどのように、彼女。


「トランプを一種類、指定する権利がある――マークが何かは関係なく」

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