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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、上海
292/350

試合7

 数分前の状況はきれいに霧散していた。

 圧倒的有利を覆されたとの事実。

 半ば予想はしていたものの、動揺は隠せない。


 ――まいったよ。

 ――君の方が強い。


 いっそ、そう言ってしまいたかった。

 軽口めかせて降参すれば、これまでの一切が不問になる事だろう。

 ……彼女を相手に、無謀な勝負を挑む真似さえも。

 思いながら、彼女のかたわらの赤子を見る。

 この子の父親も、あっさり教えてくれるかも知れない。


 けれども、そうはできなかった。

 反発か臆病か。

 あるいはそれとも、意地にも似た何か。

 うまく言いかねる心が、その場での投了を拒んでいた。

 肺を水で満たす思いでありながら、なおも。


「あなたの権利は」


 その意地を見透かすように、彼女。


「天才を指導する権利、でどう」


 その名詞が誰を指すのか。

 今や明らかすぎるほど明らかだ。

 言葉には無論、自惚れなどない。

 なぜなら、それは単に事実なのだから。

 いや、と僕は思い直す。

 それはむしろ、真実とでも言うべきではないか。


「私の師。そう名乗り、また称される権利――それが、改めて私と組む報酬。見返りとしては、十分と思うけど」


 俗世の地位でもなければ、はした金でもない。

 彼女も、分かってはいるのだ。

 生半可なことで、こちらが心を動かさない質なのは。

 そして恐らくは、こちらがそう察していることも。

 ある意味、僕らはひどく分かり合えていた。


 考えながら、僕はある作品を思い出していた。

 彼女に話したことはない。

 その本が出るのは、今からおよそ90年後のはずだった。

 僕も彼女も、それまで生きてはいまい。

 まだ存在しないことを話す不毛。

 いたずらにそれを繰り返せるほど、僕の心は強くない。


「……ちょうど、そんな風な台詞があったよ。僕の好きな作品でね」

「主役の? それとも脇役の?」

「主役の台詞、だね」

「ろくな主役じゃないわ。きっと――悪役じゃなくて?」

「そう、だね……」


 決して悪役ではない。

 悪役と言い切るには、その主役は魅力的に過ぎた。


「ともあれ、返事をもらえる? できれば、5ゲーム目に入る前に」

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