試合2
同一マークの13枚。裏にしたまま、枚数と種類を確認する。
AからKまでの13枚。
「ちゃんと13枚あるよ。確かめる?」
「あるならいいわ」
「シャッフルは?」
「任せる。裏向きであれば、後は何とでも」
「分かった」
テーブル下に、僕は両手を伸ばした。
左手で紙束を軽く持ち、右の手で引き抜くように混ぜて足す。
部屋には紙同士がこすれる音、それと赤子の寝息。
10秒と少し。これでもう僕には、カードの種類は分からない。
「配るよ」
「ええ」
絵柄を伏せたまま、僕と彼女の分を交互に配る。
6枚と6枚、そして伏せ札が1枚。
互いに無言。ただ1枚1枚、計6枚を手にとり表返していく。
絵柄はもちろん、ずべてスペードだ。
K27A9Q
手に取り終えると、まずは手元で並べ直した。
手札:A279QK
見えてない手札は必然、以下の7枚になる。
34568TJ
この7枚こそが、相手と伏せ札の全てだ。
相手の手札:??????
伏せ手札:?
先攻は僕だ。
少しだけ考えを巡らせる。
情報は何もない。
今のところ、駆け引きの余地はない。
迷う必要はないはずだ。
「8」
そう僕は宣言する。
彼女の手札になければ、つまり伏せたカードが8であれば、これで1ゲームは終わりだ。
あっけない。けれどもそれも、ひとつの決着ではある。
「-ーひとつ、確認だけど」
「何だい」
「伏せるのは?」
意味がわからない。
促すように、怪訝な視線を送る。
「つまり、よ。数字を指定された後で、伏せるのは?」
「当たり外れに関係なく、ゲームを終わらせる……て事かな?」
「ええ」
「そのゲームを落とすことになっても?」
「ええ」
わずかな思案。
道理の通る答えはひとつしかない。
「……伏せるのは、立派に権利だろうね」
「話が早くて助かるわ」
もし見たいのなら。
不意をつきひっくり返す。
あるいは、テーブルの伏せ札をもぎ取る。
単に見るだけなら、選択肢はあるだろう。
だが、その選択肢はとれなかった。
相手が本気でなければ、言葉の担保にはなるまい。
もし彼女を失望させれば、約束は力を失うだろう。
かたわらで静かに眠る、この子の父親の名前。
それを訊ねるには、つまるところ甘んじる他ない。
目先の、与えられたに等しいこの一勝を。
まずは一勝。
僕の一勝、そのはずだ。
僕 1-0 ジョゼファ
あと2勝。
最短なら、あと2ゲームになるはずだった。




