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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、上海
287/350

試合2

 同一マークの13枚。裏にしたまま、枚数と種類を確認する。

 (エース)から(キング)までの13枚。


「ちゃんと13枚あるよ。確かめる?」

「あるならいいわ」

「シャッフルは?」

「任せる。裏向きであれば、後は何とでも」

「分かった」


 テーブル下に、僕は両手を伸ばした。

 左手で紙束を軽く持ち、右の手で引き抜くように混ぜて足す。

 部屋には紙同士がこすれる音、それと赤子の寝息。

 10秒と少し。これでもう僕には、カードの種類は分からない。


「配るよ」

「ええ」


 絵柄を伏せたまま、僕と彼女の分を交互に配る。

 6枚と6枚、そして伏せ札が1枚。

 互いに無言。ただ1枚1枚、計6枚を手にとり表返していく。


 絵柄はもちろん、ずべてスペードだ。


  K27A9Q


 手に取り終えると、まずは手元で並べ直した。


  手札:A279QK


 見えてない手札は必然、以下の7枚になる。


  34568TJ


 この7枚こそが、相手と伏せ札の全てだ。


  相手の手札:??????

  伏せ手札:?


 先攻は僕だ。

 少しだけ考えを巡らせる。

 情報は何もない。

 今のところ、駆け引きの余地はない。

 迷う必要はないはずだ。


「8」


 そう僕は宣言する。

 彼女の手札になければ、つまり伏せたカードが8であれば、これで1ゲームは終わりだ。

 あっけない。けれどもそれも、ひとつの決着ではある。


「-ーひとつ、確認だけど」

「何だい」

「伏せるのは?」


 意味がわからない。

 促すように、怪訝な視線を送る。


「つまり、よ。数字を指定された後で、伏せるのは?」

「当たり外れに関係なく、ゲームを終わらせる……て事かな?」

「ええ」

「そのゲームを落とすことになっても?」

「ええ」


 わずかな思案。

 道理の通る答えはひとつしかない。


「……伏せるのは、立派に権利だろうね」

「話が早くて助かるわ」


 もし見たいのなら。

 不意をつきひっくり返す。

 あるいは、テーブルの伏せ札をもぎ取る。

 単に見るだけなら、選択肢はあるだろう。


 だが、その選択肢はとれなかった。

 相手が本気でなければ、言葉の担保にはなるまい。

 もし彼女を失望させれば、約束は力を失うだろう。

 かたわらで静かに眠る、この子の父親の名前。

 それを訊ねるには、つまるところ甘んじる他ない。

 目先の、与えられたに等しいこの一勝を。


 まずは一勝。

 僕の一勝、そのはずだ。


  僕 1-0 ジョゼファ


 あと2勝。

 最短なら、あと2ゲームになるはずだった。

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