ルール2
「それで、肝心の賭けるものだけど……」
いざ考えてみて、少しだけ言いよどむ。
僕が賭けてほしいものは、僕が聞きたいことについてだ。
いま僕が聞きたいのは、つまりは赤子の父親のこと。
彼女の後ろ、静かに眠っているあの子の。
質問の権利ひとつ。それこそが、僕が賭けて欲しいものだ。
では、天秤の反対側はどうだろう。
僕の方に、その問いに釣り合う材料はあるのだろうか。
真正面、彼女を問うに足るだけの材料が。
「僕は質問ひとつ。質問に対し正直に答えてもらう権利、それを賭けて欲しい」
考えを止め、僕は聞いた。
あくまで、質問の中身を伏せたままで。
率直な方が話も早いとの判断だ。
「ジョゼファ、君は僕に、何を賭けさせる? もちろん、この賭けを受けるとして、だけど」
「――一度こちらに戻って来て欲しい、と言いたいところだけど」
質問の中身を問うでもない。
ほんのわずか、意外ではあった。
「それでは釣り合わない」
「?」
「質問ひとつで身柄を求めるほど、私は不遜じゃない」
「――勝負に付き合ってもらってるのはこっちだよ。多少、割増すだけの権利はあると思うけど?」
事実の指摘でも、ましてや誘導でもない。
これはだから、純粋な疑問。
「僕としては、本気で相手をしてくれないと……」
このときの感情を。
どう表現したものか、ひどく迷う。
ゆえに僕は、ひとまずこう表すことにする。
「とても悲しい」
「心配はしないでいいわ。本気は出す――あなたの今が、どうであれ」
確約。
真正面からやり合えるとの誓約。
いや、言い方はどうでもいい。
僕の胸の奥、静かに踊るような喜び。
ただそれだけが、このとき確かに感じだことだ。
それがどれだけ危険なことか、まったく分からないままに。




