取引
ともあれ、だ。
冷たい感触とは別に、まだ目の前のことは残っている。
「――申し訳ありません」
心からの意を込めて、僕は言う。
仮に僕が提督なら、先程の発言に傷ついただろうから。
「提督のこと、見誤っておりました」
言いながら考える。この場ですぐにも、見せられる謝意は何だろう。
無論、取り引きを考えている時点でもはや、元の関係にとは言いがたいのだけど。
こうなった以上、関係は変化せざるを得ない。
その変化のきっかけは僕、僕の方なのだ。
「ひとつ、言っておきましょう――艦隊は目的地には、確かに到着する。少なくとも、そのはずです」
断定はしなかった。
想定外のことは、何であれあり得るからだ。
補給の失敗、厭戦、あるいは到着以前の交戦。
そのどれをとっても、未知の可能性を持つ。
そうなったとき、友人の信をさらに失うのは耐えがたい。
なので僕は、言葉を続ける。
「――僕のいた世界では、そうなっていました。それは確かです」
言外に、それ以上は不確かだとの意味も込めて。
正確ではないが、不誠実でもないはずの言い回しだ。
「ふむ」
顎に手を当て、提督は頷く。
考えを巡らせるその様子に、まずは少しだけ安堵する。
ともあれ、手酷い断絶は何とか避けられたらしい。
「それはつまり、予言者ほどには将来が分からない――そう言うことかね」
僕の答えに迷いはなかった。
迷わず答えなければ、信用も無いだろうから。
「はい。おおむねは分かりますが、予想外もあり得ます」




