必至
「――だろうな。いや済まない、忘れてくれ」
僕の内心とは裏腹、提督は静かなものだった。
確認は済んだ、そんな口調。
穏やかなその確信を翻すのは、今からではむずかしいだろう。
「僕は、何を間違えましたか」
肯定も否定もしない、ただ問うた。
忘れられることもあれば、忘れられないこともある。
「言い回しだよ」
返ってきたのは、迷いのない答え。
「言われている意味、と先程の君は言った。仰る意味なら分かる、何度となく口にしてるからな。だが、この言い回しはたぶん、初めてだ」
肯定も否定もしない。
ただ少しだけ、僕の頬に力がこもる。
「そこに動揺を見て取るのは、むずかしいことではない。つまり、なにがしか当たっていると言うことだ――私の、単なる推測が」
「荒唐無稽ですね。まさか彼女が吹き込んだとも思えないですが」
「無論。かの女史が話すかのどうか、そしてそれを私が信じるかどうか。それは君が一番よく知っているんじゃないかね?」
ならば、だ。提督は自力で気づいたことになる。
それはもっと良くないことだ。
提督が他人に話すとは考えづらい。
けれども、同じ材料を得た人間なら、そう気づくかも知れないのだ。
「――仕事柄だよ」
謎を解いて見せるように、提督。
「神がかりのお告げ――神託を言いに来る人間は、私にとってそう珍しいことではない。それが上に立つ者の宿命と言うものだ」
「なら僕らもそうでしょう。その可能性の方が、はるかに高い」
「――何かを見てきたように言う者もいる、本物かと見まがう者も――熱に浮かされながらね。ところが女史は、いや君らは、あくまでも平静だった――これはだから、個人的に思っただけのことだ。ネヴァ川の流れも時に凍る。川辺の岩の合間では、わずかに逆流していることもある」
「時の流れもあるいは、と?」
「ああ。流行り物で下らないと思われるかも知れないが――実は、 S F が好きでね。君は、あれらを読んだことはあるかね」




