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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1904年、北海、ドッガーバンク
265/350

必至

「――だろうな。いや済まない、忘れてくれ」


 僕の内心とは裏腹、提督は静かなものだった。

 確認は済んだ、そんな口調。

 穏やかなその確信を翻すのは、今からではむずかしいだろう。


「僕は、何を間違えましたか」


 肯定も否定もしない、ただ問うた。

 忘れられることもあれば、忘れられないこともある。


「言い回しだよ」


 返ってきたのは、迷いのない答え。


言われている意味(・・・・・・・・)、と先程の君は言った。仰る意味(・・・)なら分かる、何度となく口にしてるからな。だが、この言い回しはたぶん、初めてだ」


 肯定も否定もしない。

 ただ少しだけ、僕の頬に力がこもる。


「そこに動揺を見て取るのは、むずかしいことではない。つまり、なにがしか当たっていると言うことだ――私の、単なる推測が」


「荒唐無稽ですね。まさか彼女が吹き込んだとも思えないですが」


「無論。かの女史が話すかのどうか、そしてそれを私が信じるかどうか。それは君が一番よく知っているんじゃないかね?」


 ならば、だ。提督は自力で気づいたことになる。

 それはもっと良くないことだ。

 提督が他人に話すとは考えづらい。

 けれども、同じ材料を得た人間なら、そう気づくかも知れないのだ。


「――仕事柄だよ」


 謎を解いて見せるように、提督。


「神がかりのお告げ――神託を言いに来る人間は、私にとってそう珍しいことではない。それが上に立つ者の宿命と言うものだ」


「なら僕ら(・・)もそうでしょう。その可能性の方が、はるかに高い」


「――何かを見てきたように言う者もいる、本物かと見まがう者も――熱に浮かされながらね。ところが女史は、いや君らは、あくまでも平静だった――これはだから、個人的に思っただけのことだ。ネヴァ川の流れも時に凍る。川辺の岩の合間では、わずかに逆流していることもある」


「時の流れもあるいは、と?」


「ああ。流行り物で下らないと思われるかも知れないが――実は、 S F (ファンタスチカ)が好きでね。君は、あれらを読んだことはあるかね」

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