表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1904年、北海、ドッガーバンク
253/350

紅茶

 給茶器(サモワール)はまだ暖かかった。

 最後にお湯を注ぎ、既に数十分。

 船の余熱は、かろうじて生きている。

 今なお蒸気機関のなかで燃え続けている、石炭の名残り火は。


 紅茶二人分(・・・)を少量ずつ注ぎ、そのまま僕は席に戻る。


「どうぞ」


 一杯は僕のぶん。

 一杯は提督のぶん。


「……私はウォッカを頼んだはずだが?」


 不愉快や怪訝ではない。

 率直に、こちらの意図を問う顔だ。


「任務中ですからね――少なくとも、そう思ってもらわないと困ります」


 提督の酒の強さは知っている。

 1杯程度で酔うことはまずないだろう。

 うまく酒を嗜めない者は、ロシアの軍で出世などできない。


「話が終わり次第、きちんと(ヴィノー)をお注ぎします。その点はご安心下さい」


 先に肴をつまんでおくこと。

 一息にあおること。

 何より、空きっ腹に流し込まないこと。

 強い酒を綺麗に嗜むにも、いろいろなコツがある。

 様々なそれを駆使しなければ、さすがのロシア人と言えど、今度は長生きの方がむずかしい。


 それに、だ。

 さすがの提督であっても、疲労状態のアルコールが上手く作用するとは限らない。

 疲労と一緒に、記憶を失わせる可能性だって考えられる。

 忘却の口実もあり得ないではないが、ここでそこまで考えても仕方ない。


「いったん、僕も同じものを飲みます。何でしたら、僕の分と交換しますが」


「――一杯、頂くとしよう」


「恩に着ます」


 軽く会釈し、僕は乾杯の意を述べる。


「では、底まで(ダドナー)


底まで(ダドナー)


 わずかに注がれた二杯の紅茶は、一息に飲み干されていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ