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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第二部】 1904年、フィンランド湾、クロンシュタット
243/350

説明

 氷水で冷えた、透明の生地。

 その生地を幾度となくスプーンですくい、器に盛り付ける

 そして透き通った本体の上へ、こげ茶色のカラメルソースを注いでいく。


「これは――」


 その言葉に、ようやく僕は気付かされる。

 どうしたものだろう、少しだけ説明に迷う。


 わらび餅、の名前をまず知っているとは思えない。

 そもそも今の日本(ヤポーニャ)はまだ、極東の新興国に過ぎないのだから。

 この餅にしても、主流と言う程ありふれてはいないはずだ。

 果たしてこの甘味を、どう説明したものだろう。


「――ゼリー(ジュレ)か。こんな方法があるとはな」


 僕の心配はどうやら、杞憂に終わったらしかった。


 フルーツも肉も使ってはいない。

 けれども確かに、見た目はそうだ。

 と言うより、クラッシュゼリー(ジュレ)以外の何物でもないのだろう。

 不要になった説明に、思わず僕の口も軽くなる。


「食べてみるかい?」


「いいのか?」


「盛り付けるには量が多いからね。もっとも、気に入るかどうかは分からないけど……」


 これは本音だ。

 ゼリーほど甘くもなければ、柔らかくもない。

 ほとんどコンニャクめいた弾力、そう言いかけて口ごもる。

 コンニャクもわらび餅も、知名度の無さに大差はないはずだ。

 

 日本語(イポンスキ)

 その言葉を、いや単語を、果たして僕が口にすることはあるのだろうか。


「――生地に味はつけてないよ。とりあえず、カラメルをかけて食べてみて。好みでシナモンをかけてもいいと思う」


 内心を押し隠し、僕は言う。


「では、遠慮なく頂こう」


 黒糖もきな粉も、もちろん抹茶ももない。

 けれども。それでも。

 僕の中でこれは、立派にわらび餅なのだ。


 郷里への思いの、忘れ形見にも似たもの。

 何かしら、そんな思いを起こすくらいには。

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