説明
氷水で冷えた、透明の生地。
その生地を幾度となくスプーンですくい、器に盛り付ける
そして透き通った本体の上へ、こげ茶色のカラメルソースを注いでいく。
「これは――」
その言葉に、ようやく僕は気付かされる。
どうしたものだろう、少しだけ説明に迷う。
わらび餅、の名前をまず知っているとは思えない。
そもそも今の日本はまだ、極東の新興国に過ぎないのだから。
この餅にしても、主流と言う程ありふれてはいないはずだ。
果たしてこの甘味を、どう説明したものだろう。
「――ゼリーか。こんな方法があるとはな」
僕の心配はどうやら、杞憂に終わったらしかった。
フルーツも肉も使ってはいない。
けれども確かに、見た目はそうだ。
と言うより、クラッシュゼリー以外の何物でもないのだろう。
不要になった説明に、思わず僕の口も軽くなる。
「食べてみるかい?」
「いいのか?」
「盛り付けるには量が多いからね。もっとも、気に入るかどうかは分からないけど……」
これは本音だ。
ゼリーほど甘くもなければ、柔らかくもない。
ほとんどコンニャクめいた弾力、そう言いかけて口ごもる。
コンニャクもわらび餅も、知名度の無さに大差はないはずだ。
日本語。
その言葉を、いや単語を、果たして僕が口にすることはあるのだろうか。
「――生地に味はつけてないよ。とりあえず、カラメルをかけて食べてみて。好みでシナモンをかけてもいいと思う」
内心を押し隠し、僕は言う。
「では、遠慮なく頂こう」
黒糖もきな粉も、もちろん抹茶ももない。
けれども。それでも。
僕の中でこれは、立派にわらび餅なのだ。
郷里への思いの、忘れ形見にも似たもの。
何かしら、そんな思いを起こすくらいには。




