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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第二部】 1904年、フィンランド湾、クロンシュタット
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ふた皿目・4

 一度思いついてしまえば、どうと言うことはない。

 肉料理と併せて提出するならお菓子(デザート)だ。

 同じ焼くにしても、肉と焼き菓子とでは焼き方が違う。

 味つけにしても、食感にしてもそうだ。

 審査する側にしてみれば、様々な側面を確かめることができる。


 大枠は決めた、いや、決まった。

 少なくとも大きな問題はひとつ解消した。

 となると、残りの問題は。


「――でも、あまり選択肢がないな」


 季節は初夏。

 トマトは青さが混じり、野生のアスパラガスは瑞々しい。

 果物もまた、時期のものが出始めている。

 ここの氷冷式冷蔵庫にも、小メロン(シャランテ)蟠桃(ペッシュプラット)が入っていた。

 ただ、時間的にも主な手法的にも、使うならそのまま切って出すことになる。

 手法がカッティングだけなのは、さすがにどうだろう。


 パイは個人的に好きだけど、焼き菓子に時間が足りないのは分かっている。

 制限時間的にも想定していなかったのだろう。

 材料に、他には使えそうなものは見当たらない。


「栗もリンゴも今は旬じゃないしな……」


 1904年、初夏。

 この時代の旬とは、すなわち制約にほかならない。

 ハウス栽培は存在すらせず、輸入ものは等しく高価。

 飛行機の誕生から半年しか経っていない今、船荷と言えば貴重品のこと。

 コンテナの発明と輸送コストの劇的低下には、まだ半世紀以上の間があるはずだ。

 ――こう考えていても、刻々と時間は過ぎてゆくのだけど。


「フランス料理にこだわり過ぎじゃないのか?」


「……と言うと?」


「つまり、だ。君は、言われてもいない制約を課してないかね」


 その言葉に、僕はまた、落ち着きを取り戻していく。

 簡潔そのもの、わずか紙2枚の試験要項。

 苦もなく振り返ることができる、その要項によると。


「――制限はほぼ材料だけ、か」


 一つ、課題は2皿にて提出すること。

 一つ、材料及び完成品の持ち込みは不可とする。

 なるほど。


「分かるだろう?」


「……何となくは、ね」

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