ひと皿目・5
「以前、こう言うものもある、と聞いてはいたんだけど」
これは教科書、社会科の中でのお話。
聞いた知識であることに変わりはない。
「実際に目にするのは初めてだね」
さすがに氷冷式の、それも木製の冷蔵庫を見るのは初めてだ。
嘘ではない。決して、嘘では。
自分からわざわざ、電気式冷蔵庫やヒートポンプの話をする気がないだけ。
「――だから、よく勝手が分からないんだ」
「分かるも何も、まあ見たままの道具だな」
言いながら、男は上部の扉を開ける。
仕切り網の上に二、三個見え隠れする、氷の塊。
あの氷からの冷気が、下部の棚を満たすのだろう。
扉は無論、すぐに閉められる。
「氷の洞窟を作る訳でないから、冷気は逃げやすい。まあさっとと開け閉めすればいいだけだが。――上の扉、開けたことは内密にな」
確かに、必ずしも必要ではない行為ではあった。
見たままではあるけれど、単なる説明で済む話でもある。
若干の好奇心が見え隠れした瞬間なのだろう。
「そこまで頼んでないからね、さっきのと相殺にしておこう」
「はは、了解。作業に戻る」
ほどなく、ステーキは焼き上がった。
正確には、ひと皿目の1枚と、焼き間違えた2枚とが。
「揚がったぞ」
辺りを漂う、肉とジャガイモの匂い。
「ありがと。こちらも焼けたよ」
3皿にそれぞれを盛り付け、提出用の皿にはもう一手間を加える。
薬味用の小皿2つを乗せ、一つはマスタード、一つは塩をそれぞれ入れる。
ステーキにバターは考えて、迷った末にやめた。
できたてなら自信を持って出せるけど、提出する時は熱々ではないからだ。
――何はともあれ。
ひと皿目、ステーキフリットの完成だ。
「さて」
次いでは問題の、ふた皿目を考える時間。




