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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第二部】 1904年、フィンランド湾、クロンシュタット
232/350

ひと皿目・4

「じゃあ、揚げ物の方は頼むよ」


 そう言い、自分の作業に集中していく。

 あらためて焼き間違える(・・・・・・)分を計算しながら、僕は手元の肉を切り分ける。

 提出用の薄切り1枚肉と、それに予備(・・)を2枚。


 もちろん、僕が焼き加減を間違えるのは、はっきり言ってかなりむずかしい。

 薄切り肉であっても、じっくり焼くのが好みだからだ。

 さっと強火で周囲を焼き固めるのが常識とされた時代もあったけど、それはちがう。

 強火で固めても肉汁はこぼれてしまう、ならば弱火でじっくり焼く方が失敗もない。

 少なくとも、僕の習った知識ではそうだ。

 つまり――まあその、食料捻出のための方便と言う奴だ。


「さて」


 残りの肉をしまおうと考え、調理場を見渡す。

 そこで僕は、見慣れない、いや、かつて見慣れた(・・・・・・・)ものに気づく。

 最上部、氷を入れる食材入れ。

 電力稼働でこそないけれど、まぎれもない冷蔵庫。

 港が近くとはいえ、店に余裕がある証だった。

 やはりと言うべきか、繁盛している店なのだろう。


 新鮮なものを、新鮮な内に使い切れる客入り。

 そして大量の仕入れは、信用と価格交渉力を蓄積する。

 正のサイクルが成立し、おいしい店は一層おいしい店になる。

 おいしさはもちろん繁盛を呼び――繁盛しているからこそ、こうして原価率を上げることもできる。

 そして原価率とは、何も目に見える材料だけの話じゃない。

 この試験会場が通常営業時、いい店であるだろうこと。

 それはたぶん、ほぼ間違いないことだ。


「これ、開けていいのかな?」


 一応のつもりで、僕は問う。

 電気冷蔵庫はいざ知らず、氷冷式の加減はさすがに分からない。


「残りの肉、しまっておこうと思うのだけど」


「それは知ってるんだな」


「何を?」


「使い方を」


 何とはなしに、僕は察する。

 氷冷式冷蔵庫は、知らない者も多い、この時代での最新鋭なのだろう。

 確かに僕の聞き方は、使い方を知っている者のそれだった。

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