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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第二部】 1904年、フィンランド湾、クロンシュタット
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気まぐれ

「――作るよ」


 そう僕は言った。

 口の端に、ほんの少しだけ笑みを浮かべて。

 一瞬で引っ込めたから、相手には見えなかったはずだけど。


「い、いいのか?」


 困惑顔で、ノビコフ。

 思わぬ味に、さじ加減をどうしたものか測りかねている表情。


「ああ」


「本当に?」


二言(にごん)は――いや、茸を名乗らば籠に入る(中途半端はしない)よ」


 調理台の前に戻り、コック帽をかぶり直す。

 考えることは山ほどある。

 けれども、目の前の事に気が向いたのも確かだった。

 気まぐれそのものの、やる気。

 気軽にオンオフできないのが、自分でもむずかしいところだ。


「ひとつ聞いていいか」


「ああ。ただ――短く(・・)頼むよ」


 まだ時間はある。

 けれども、涙ながらに昔話をするほどでもない。


「なぜ、その気に……?」


 僕は思わず、考え込みかける。

 自分でも説明がつかいないことに、なぜと問われるのは厳しい。


「それは、だね」


 だから僕は、曖昧に返すことにする。


「秘密」


「……気が変わらない内に頼む」


「まあ、興が向いた、てことにしといてくれるかな」


 何しろ、だ。

 それ以上の説明は、自分でもできないのだから。


「よし、じゃあ早速、メニューを決めようか」


「今からか?」


 うなずきながら、僕は調理場を見渡す。

 ピカピカでこそないが、掃除はきちんと成されている。

 調理器具もまた然りだ。

 鍋にフライパン、包丁。

 一通り、手入れされている。

 決してわるくはない。

 いやむしろ、肩がこらない分、こちらの方がいいかも知れない。


「手伝ってくれるんだよね?」


「そりゃあそうだが――」


「“ソリ遊びが好きなら、ソリ運びも好きになれ”、てね」


「この試験は遊びと」


「物の喩えだよ」


 調理器具と二皿を、コンロの近くまで持ち寄る。

 まずはフライパンで一皿、これで添え物も作ろうか。


「何かを好きなら、隅々まで好きな方が楽でいいし、それに」


 男の方を向き直り、かすかに笑ってみせる。

 今度は、相手にも見えるように。


「目の前の人間の腹を空かせておくのは、どうにも性に合わなくてね」

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