採点基準
「――で、何点かな?」
僕は促す。
「100点満点だと、分かり易くてありがたいけど」
「100点だな」
端的に、男。
「へえ?」
「ただし――200点満点だ。確かに、私が出した尻尾は掴んだと言っていい。ならば、それは残らずおさえておくべきだ。勝手な省略は感心しない」
「こいつは手厳しいね。よければ、採点基準を教えてくれないかな」
「点数だけだ」
それはさすがに、公平とは言いがたい。
不満顔の僕をよそに、男は続ける。
「師匠が厳しかったからな。これでも大甘なつもりなんだが」
「なるほど、ずいぶんと大物らしい」
目の前の男ではない。
男の師匠が、だ。
「興味がおありかな? モスクワ出の医師、とだけ聞いている。私にとってはね。名前は多すぎて覚えていないが」
「大した前口上だね」
ジェームズ・ボンドみたいだ、とほとんど言いかける。
1904年。日露戦争前夜。
イアン・フレミングはたぶん、生まれてすらいまい。
「知らぬことは話せない。秘密を守りたいなら、そもそも知ろうとしないことだ。――27年ほどで得た、私なりの処世術だよ」
年下だったのか。
意外さを隠し、心の中でメモを取る。
乏しくなりつつある相手の前髪には、ひとまず目をつむろう。
「ふむ」
嘘かそれとも本当か。
この場合、それは問題ではない。
会ったばかり人間の発言。
その真偽をすぐ見抜くなど、常人にはおよそ不可能なこと。
ならば、その上での問題とは何か。
――少なくとも相手が、これ以上話すつもりはないらしいこと、だ。
ここから何とか、相手を動かさないと始まらない。
どうしたものだろう。
少しだけ考え、いくつかの香辛料を、僕は放り込むことにする。




