表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第二部】 1904年、フィンランド湾、クロンシュタット
221/350

ひと助け

「海軍調理師隊は公平を重んずる、そうだよな?」


『その通りです』


「ゆえに、当試験において、出自・性別・人種等は考慮されない。提出の二皿を以て試験とする」


『――その通り』


「なら、だ」


 一拍の置き方にも慣れが垣間見えた。

 まちがっても素人(・・)のそれではない。


「手負いの者に手を差し伸べないのは、果たして公平と言えるのかな?」


 なるほど、その名目で僕の“手助け”に入ると言うことか。

 ――滅茶苦茶だ。そう僕は思う。

 そもそも僕が手負いというのが、何かしらの行き違いなのだから。


 手負いは暗黙の内に、そこからの回復を想定している。

 一方、僕のそれにもはや見込みはない。

 僕が天然痘の災禍から生還して、はや8年。

 今さらリハビリで治るような歳月ではない。

 無論、その為の施設や方法論もまた、確立されているとは言いがたい。

 海へ出れば、そこは当然の閉鎖環境。

 片腕の回復不能がバレるのも、時間の問題でしかない。


 ――それとも、だ。

 ほかに何かあるのだろうか。

 この片腕で、どうにかやり過ごせる方法が。

 海の上、頼れる者もない場所で。


「試験要項では、“一人で作るものとする”とは書かれていない」


『え、ええ』


 参加者間の競争を想定したから、協力は想定されていないだけだ。

 限りなく詭弁に近い言い回し。

 あるいはそれでも、規則は規則なのだろうか。

 一蹴か熟考。この審査員は果たしてどうだろう。


「なら俺の申し出を断るのも、公平じゃないだろう?」


『そうかも知れませんが――』


「公平じゃない。だから、俺が手伝う。拒む法はない。不安ならその分だけ点を差し引きすればいい、何の問題もない」


 ひとまず、分かったことがある。

 目の前のこの男、アレクセイは、自信があると言うことだ。

 僕に使わせることで、手の代わりに、手助けになるとの確信が。


 審査員を見る。悩む顔だ。

 試験のこれ以上の混乱と、目の前の男の申し出。

 厄介ごとと厄介ごとを比べるときの顔。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ