ひと助け
「海軍調理師隊は公平を重んずる、そうだよな?」
『その通りです』
「ゆえに、当試験において、出自・性別・人種等は考慮されない。提出の二皿を以て試験とする」
『――その通り』
「なら、だ」
一拍の置き方にも慣れが垣間見えた。
まちがっても素人のそれではない。
「手負いの者に手を差し伸べないのは、果たして公平と言えるのかな?」
なるほど、その名目で僕の“手助け”に入ると言うことか。
――滅茶苦茶だ。そう僕は思う。
そもそも僕が手負いというのが、何かしらの行き違いなのだから。
手負いは暗黙の内に、そこからの回復を想定している。
一方、僕のそれにもはや見込みはない。
僕が天然痘の災禍から生還して、はや8年。
今さらリハビリで治るような歳月ではない。
無論、その為の施設や方法論もまた、確立されているとは言いがたい。
海へ出れば、そこは当然の閉鎖環境。
片腕の回復不能がバレるのも、時間の問題でしかない。
――それとも、だ。
ほかに何かあるのだろうか。
この片腕で、どうにかやり過ごせる方法が。
海の上、頼れる者もない場所で。
「試験要項では、“一人で作るものとする”とは書かれていない」
『え、ええ』
参加者間の競争を想定したから、協力は想定されていないだけだ。
限りなく詭弁に近い言い回し。
あるいはそれでも、規則は規則なのだろうか。
一蹴か熟考。この審査員は果たしてどうだろう。
「なら俺の申し出を断るのも、公平じゃないだろう?」
『そうかも知れませんが――』
「公平じゃない。だから、俺が手伝う。拒む法はない。不安ならその分だけ点を差し引きすればいい、何の問題もない」
ひとまず、分かったことがある。
目の前のこの男、アレクセイは、自信があると言うことだ。
僕に使わせることで、手の代わりに、手助けになるとの確信が。
審査員を見る。悩む顔だ。
試験のこれ以上の混乱と、目の前の男の申し出。
厄介ごとと厄介ごとを比べるときの顔。




