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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1903年、シベリア、イルクーツク 12月
205/350

世界大戦

第零次(・・・)世界大戦?」


 第零次に置かれたアクセント。

 ――なるほど、そこを聞くのか。

 静かに感心しながら、僕は答える。


「聞きたい?」


「短い話なら、ね」


「……努力はするよ」


「なら続けて」


「つまり、だよ。戦争で以前とは比べものにならない、ケタ違いの死人が出るってこと。それも、この先に何度でも」


 一息置く間に、僕は諸々の事どもを思い浮かべる。

 今まさに揃い踏みしつつある、様々な技術を。

 右手の受話器を、僕は軽く握り直す。


「今使ってる電話もそうだし、来年に全線開通する(・・・・・・・・・)シベリア鉄道もそう。通信の発展も交通の進歩も、裏を返せば召集(・・)の容易さにつながる。もう少ししたら、自動車と飛行機――いや、機械式の馬車と、機械式の鳥も出てくるよ。出てくるってのはつまり、目に見える形で広まる、てことだけど」


「あと数年で?」


()の方はもう少しかかるね。馬車(・・)の方は……確かアメリカで、企業が立ち上がったばかりだと思う」


 ライト兄妹の複葉機。

 ヘンリー・フォードのT型フォード。

 ようやく、僕は気付く。

 飛行機の発祥も自動車の量産も1903年――つまり、つい今年のことなのだ。


 あと数年で、戦争は変わる。

 もはや戦場だけが戦争の時代は終わる。

 前線だけでなく銃後も、戦争の例外ではなくなる。

 いや、もはやこう言うべきだろうか。

 戦争は変わった――と。


 前線と銃後。

 そう口に出しかけて、僕は言葉を飲み込む。

 あれは第一次世界大戦以降、総力戦との概念が一般化した後の言葉のはずだ。

 となると、どう説明したものだろう。


 少し考えて、僕は続ける。


「賭け金が増えれば必然、手数料も負けたときの損も増えるってこと。――ここまではいいかな?」


「ええ。――ひとつ、訊いてもいい?」


「もちろん」


「勝ったときは?」


「……と言うと?」


「勝てば元手は返ってくるの、てこと」

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