世界大戦
「第零次世界大戦?」
第零次に置かれたアクセント。
――なるほど、そこを聞くのか。
静かに感心しながら、僕は答える。
「聞きたい?」
「短い話なら、ね」
「……努力はするよ」
「なら続けて」
「つまり、だよ。戦争で以前とは比べものにならない、ケタ違いの死人が出るってこと。それも、この先に何度でも」
一息置く間に、僕は諸々の事どもを思い浮かべる。
今まさに揃い踏みしつつある、様々な技術を。
右手の受話器を、僕は軽く握り直す。
「今使ってる電話もそうだし、来年に全線開通するシベリア鉄道もそう。通信の発展も交通の進歩も、裏を返せば召集の容易さにつながる。もう少ししたら、自動車と飛行機――いや、機械式の馬車と、機械式の鳥も出てくるよ。出てくるってのはつまり、目に見える形で広まる、てことだけど」
「あと数年で?」
「鳥の方はもう少しかかるね。馬車の方は……確かアメリカで、企業が立ち上がったばかりだと思う」
ライト兄妹の複葉機。
ヘンリー・フォードのT型フォード。
ようやく、僕は気付く。
飛行機の発祥も自動車の量産も1903年――つまり、つい今年のことなのだ。
あと数年で、戦争は変わる。
もはや戦場だけが戦争の時代は終わる。
前線だけでなく銃後も、戦争の例外ではなくなる。
いや、もはやこう言うべきだろうか。
戦争は変わった――と。
前線と銃後。
そう口に出しかけて、僕は言葉を飲み込む。
あれは第一次世界大戦以降、総力戦との概念が一般化した後の言葉のはずだ。
となると、どう説明したものだろう。
少し考えて、僕は続ける。
「賭け金が増えれば必然、手数料も負けたときの損も増えるってこと。――ここまではいいかな?」
「ええ。――ひとつ、訊いてもいい?」
「もちろん」
「勝ったときは?」
「……と言うと?」
「勝てば元手は返ってくるの、てこと」




