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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1902年、シベリア、イルクーツク 【その2】
196/350

非公式

「ラジーシチェフを、ご存じないと」


「申し訳ありませんが……」


「今年の秋に、没後100年でした。非公式とは言え、それなりに話題にはなりましたよ」


 非公式(・・・)の意味するところは明確だ。

 地下出版(サミズダート)との言葉の出現はまだでも、概念自体は大昔からある。

 書物・文章の発禁と、地下での流通。

 公式出版(ガスイズダート)に存在しないものは、密かに世に広まっていく。

 ――表向きの禁止とは裏腹に。

 この手の事情は、いついかなる所でも同じなのだろう。


「その気になれば人づてで入手のかも知れませんが、さすがにむずかしいですね……」


 今年の9月、僕は既にシベリアにいた。

 と言って、今さら相方ジョゼファに頼むのも厳しい。

 一応の警戒はされていることだろう。


「――ときに、聖書は読まれますか?」


 唐突に、老人は問う。


「……いえ」


「この家にも、何冊かありましたでしょう。手にとってみられるといい――ここは以前、同志の住処でしてな。今は欧州で、出版(・・)をしておるはずです」


 僕は不意に、思い当たることがあった。


「その出版物の名前は?」

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