暖かみ
食卓に戻り、僕はセルゲイ老人の言葉に迎えられる。
「なかなか、にぎやかでしたな」
「――ええ。あのにぎやかさも、たまのことなら案外いいものです」
椅子に座り直し、改めて紅茶を口にする。
もちろん、朝方でも暖炉を焚いてはいる。
けれども時間が経った分だけ、琥珀色の液体は少し冷たい。
「ふむ」
最後の一口を飲み干し、老人。
「苦手、ですかな?」
「……何のことでしょうか」
不意の質問に、僕は面食らう。
問わず語らず。少なくとも自分からは。
流刑地流刑囚同士の、それが不文律だった。
その不文律を、いわば先住民に等しい者から破るのは珍しい。
「暖かみが、です」
暖かみ。
老人の口にしたものが、気温のことでないのは分かった。
コップを持ち直し、僕もまた、紅茶を飲み干す。
「――唐突ですね」
「つい、伺いたくなったものでしてな。深入りでしたら、控えましょう」
「いえ、大丈夫です。深入りになるかも知れませんが、でも面白そうだ」
「ふむ」
老人は思案顔になる。
額に刻まれたしわを寄せたのだから、思案の兆しなのだろう。
僕に祖父母がいなかったせいもあってか、年寄りの表情はよく分からない。




