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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1902年、シベリア、イルクーツク
174/350

暖かみ

 食卓に戻り、僕はセルゲイ老人の言葉に迎えられる。


「なかなか、にぎやかでしたな」


「――ええ。あのにぎやかさも、たまのことなら案外いいものです」


 椅子に座り直し、改めて紅茶を口にする。

 もちろん、朝方でも暖炉を焚いてはいる。

 けれども時間が経った分だけ、琥珀色の液体は少し冷たい。


「ふむ」


 最後の一口を飲み干し、老人。


「苦手、ですかな?」


「……何のことでしょうか」


 不意の質問に、僕は面食らう。

 問わず語らず。少なくとも自分からは。

 流刑地流刑囚同士の、それが不文律だった。

 その不文律を、いわば先住民に等しい者から破るのは珍しい。


「暖かみが、です」


 暖かみ。

 老人の口にしたものが、気温のことでないのは分かった。

 コップを持ち直し、僕もまた、紅茶を飲み干す。


「――唐突ですね」


「つい、伺いたくなったものでしてな。深入りでしたら、控えましょう」


「いえ、大丈夫です。深入りになるかも知れませんが、でも面白そうだ」


「ふむ」


 老人は思案顔になる。

 額に刻まれたしわを寄せたのだから、思案の兆し(プリーズナキ)なのだろう。

 僕に祖父母がいなかったせいもあってか、年寄りの表情はよく分からない。

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