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朝食前
ひとまず、僕は家に舞い戻る。
午前8時半過ぎ。
日はようやく射したばかりで、室内の気温はさして変わらない。
それでも、生まれた日向にはかすかな暖かさがある。
当然のことながら、体力も気力もさして減っていない。
数十分の会話と薪との交換、薪には配達つき。
極めて申し分のない取り引きだ。
――この現状確認は癖のようなものだ。
いついかなるときも、何かに備えられるように。
幸いにも、その何かが来たことはまだないのだけど。
少なくとも、シベリアのこの地では。
「さて」
来客に備えて、僕はテーブル上に支度を始める。
給茶器用の紅茶葉。
ロシアン・ティーに欠かせない浅煮ジャム。
黒パン。昨日の残りの野菜煮込みスープ。
ボルシチに入れるサワークリーム。
食器も忘れずに準備した。
後は薪が来て、調理に足る火力があればいい。
「……いや、給茶器はいいかな」
思い直し、ティーポットを取り出す。
すぐに飲むなら、少量を淹れられるこちらの方がいい。




