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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1902年、シベリア、イルクーツク
161/350

朝食前

 ひとまず、僕は家に舞い戻る。

 午前8時半過ぎ。

 日はようやく射したばかりで、室内の気温はさして変わらない。

 それでも、生まれた日向にはかすかな暖かさがある。


 当然のことながら、体力も気力もさして減っていない。

 数十分の会話と薪との交換、薪には配達つき。

 極めて申し分のない取り引きだ。


 ――この現状確認は癖のようなものだ。

 いついかなるときも、何かに備えられるように。

 幸いにも、その何か(・・)が来たことはまだないのだけど。

 少なくとも、シベリアのこの地(イルクーツク)では。


「さて」


 来客に備えて、僕はテーブル上に支度を始める。

 給茶器(サモワール)用の紅茶葉。

 ロシアン・ティーに欠かせない浅煮ジャム(ヴァレーニエ)

 黒パン。昨日の残りの野菜煮込みスープ(ボルシチ)

 ボルシチに入れるサワークリーム(スメタナ)


 食器も忘れずに準備した。

 後は薪が来て、調理に足る火力があればいい。


「……いや、給茶器(サモワール)はいいかな」


 思い直し、ティーポットを取り出す。

 すぐに飲むなら、少量を淹れられるこちらの方がいい。

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