153/350
交通手段
もう少し正確に言うなら、今の僕は収容所暮らしではない。
流刑の身に変わりはないのだけど、きっと想像と実状はかけ離れているだろう。
戸建ての庭付きに、生活費の支給。
家には暖炉も書斎も備え付けられている。
冬場の外はさすがに寒いけど、屋内ならそうでもない。
生活費にしても、ここイルクーツクの物価の安さもあって十二分。
思い切って気分を変えたいなら、70㎞ほど離れたバイカル湖まで遠出してもいい。
バスでもあればもっと気軽だけど、あの交通手段が普及するのは、もう少し後の時代になってのことだ。
本が乏しいこと以外、僕としては文句のつけどころはない。
もっとも、いくら貴族扱いであっても、さすがにこの待遇が普通という訳ではないらしい。
少し前までウラジミールなる大物が住んでいて、たまたま僕が来る直前に空いたのだとか。
ちなみに刑期を終えたウラジミール氏はと言うと、今やスイスかそこらに亡命中だと言う。
さすがに流刑の意味がないのでは……と、いくら何でも思わなくもない。




