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間際
いっそのこと、ジョゼファにすべてを打ち明けるべきなのだろうか。
僕の出自を。これからのグルジアの歴史を。
そして、彼女がたどるはずの道を。
――この最後に頭をよぎった考えが、僕を押しとどめた。
歴史上、赤い魔女、ジョゼファ・スターリナの両頬には痘痕があったとされる。
文字通り、天然痘の後遺症としての痘痕が。
この村が病に襲われていないのは、ここ一年で確認済みだ。
……ひとたび襲われれば、その対抗策が恐らく存在しないのも。
あらためて、彼女の頬を見る。ごく普通の、飾り気のない頬を。
いったい今、どう考えればいいのだろう。
僕の歴史と彼女の歴史。
この二つが同一かは、まだ分からないのではないか。
もし違ったなら、果たしてどうなのだろう?
僕はただ、この一年で積み重ねてきた信用を失うだけだ。
いや失うだけならいい。下手をすると正気さえ疑われかねない。
後ろ盾の存在しない僕にとって、それはただただ致命的だ。
僕のすべてを、彼女に打ち明けること。
今の僕にはそれが、ひどく危険な賭けのように思われた。




