駆け引き
「考えをお聞かせ頂けると、僕としても気持ちよくお話できますよ。出来ればあなたのお名前も伺いたいところですが、そこまで贅沢は申しません」
名乗り出てくれるなら、聞くことは聞こう。
その上で。
覚えるに値するかどうかは、対応次第だ。
一歩だけ、僕は彼我の距離を詰める。
値踏みするように、僕は後を続ける。
「もう分かっているでしょう、僕が逃げやしないのを。でも100%かどうかは分からない。聞いてくれれば、万が一の気まぐれを起こさない、と言ってるんです。お互い、損な取引じゃないはずだ」
不思議な手応えを覚えていた。
ほとんど踏みしめるような確信を。
「さあ、教えてください。僕のどこに、牙を感じたのかを」
「……分析、です」
男の声は、どこか弱々しい。
無論、僕はその先を促す。
「と言うと?」
「最初は本当にただのカンでした。でも今は違う。その直後、私はためらった。そこを突かれた。あの速さ、それに思い切り――まぎれもなく牙、です」
「お褒め頂き、どうも」
「――ひょっとしたら私は、今ここで、あなたを撃ち殺すべきなのかも知れません」
相手に脅しの色はない。
ただ苦悩の色がある。
その直観はたぶん、かなり正しい。




