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審問
「あなたは“象には気付かなかった”」
また何かの暗号なのだろうか。問いかけて、僕は気付く。
……いや、そうじゃない。
外国語の鉄則だ。すなわち。
――平易な言い回しなのに意味がとれないときは、諺を疑え。
こんなところで語学をおさらいさせられるとは思わなかった。
それも、カマをかけられるようなときに。
とんだ復習もあったものだ。
「もう気付いた?」
「……少しはね。知識の具合が、どうにもちぐはぐだ、と?」
「ええ」
たぶん、諺だけではなかったのだろう。
日常に積み重なる、少しずつの違和感。
そのことを――少なくとも1年以上――敢えて、尋ねずにいた彼女。
思うところはいろいろあれど、それはやはり、気遣いだったように思う。
少なくともこのときの僕は、そう信じたい気持ちにさせられた。
「なるほど、上手くいかないね。いや、僕の目が節穴だっただけか。意味、教えてくれるかな?」
「全体には目がいかない――象には気付かなかった、よ」
「……なるほど、ね」




