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備え事
「……ひとまず、悪い想像は保留したいね」
「やっぱり、甘いんじゃない」
「……そう、なのかな」
「もう一度言うわ。ユーリが本当はどう思ってるかは、この際関係ない。ただ、いざというときの――いえ、万事うまく進んだときのために、備えはしておくべきよ」
備え。
ジョゼファの言う通りだ。
仮に皇后を取り込めたなら。
仮に僕が治める側になったなら。
そんなときのための備えは、やはり必要だろう。
けれども、どうしたものだろう。
その備えが、僕には不吉なものに思えてならない。
赤い魔女――ロシアの血塗られた統治者――の出現は、既に食い止めた。
必然、それにまつわる諸々も、止むに至ったはずだ。
でも果たして、この道行きはどうなのだろう。
――僕は、どこで間違った?
思いがけない自問自答に、僕は動揺する。
いや、そんなことはない……はずだ。
少なくとも、今はまだ。
戸惑いつつも、僕はうなずく。
「そう……だね。いや、その通りだ」
おそらくは、きっと。




