81.オールレンジ攻撃
自分の手を見つめ、体の中に入ってきた新しい力を感じ取ろうとする。
「……なるほど」
「ど、どうですか?シリル様」
「ああ、新しい力を得た」
ジャンヌの問いに、はっきりと答えた。
自分の中ではっきりとした感触があった。
その感触が、やがて更にはっきりとしたイメージになって、頭の中に浮かび上がってきた。
俺はそのイメージに従った。
頭に手をやって、髪を何本かまとめて引っこ抜く。
それにふっ! と息を吹きかけた。
息を吹きかけ、飛ばした髪が空中で変化した。
髪が紙の人形になった。
ここに踏み込んだ瞬間に戦ったあの紙のドラゴン。
あれと同じような、紙の人形。
「こ、これは……」
『うししししし、心友そっくりなのです』
「ああ、俺の……分身、って所だな」
「分身って、前になさってた」
「ああ。あれは竜人変身の超速度で残像が見える、いわば速度分身だ。そういうのと違う、完全に個別に質量を持った分身だ」
俺はそう言い、俺の紙人形を「操作」する。
複数の紙人形を操作するのは難しかった。
右手で打楽器、左手で弦楽器を同時に弾くような感じで、最初はこんがらがってもたついていたが、次第に慣れてきた。
紙人形が二人一組で組んで、踊ったり体操したり、バトルの組み手をしたりしていた。
「わっ、す、すごい」
『うししししし、これなら戦闘に幅を持たせられるです』
「そうだな、攻撃力はさほどでもないが、牽制とか、不意や隙をついたりするのに使える」
俺は頷きつつ、パトリシアの方を向いた。
「ありがとうな」
『えっと……よく分からないですけどぉ。は-い』
彼女は戸惑いつつも、素直に頷いてくれた。
「あの……シリル様」
「うん? なんだ」
「シリル様がそのドラゴンツリーを使って作る道具って、ご自分の紙人形用に作れたりしませんか?」
「……うん」
なるほどと頷きつつ、ドラゴンツリーに向かっていく。
そしてさっきと同じように、少し毟り取って、手に取る。
しばらくそうした。
見つめたり念じたり、握り締めたりして、あれこれやってみた。
が、何も起こらなかった。
「ダメみたいだ」
俺は振り向き、苦笑しつつジャンヌにこたえた。
「ダメでしたか」
「ああ、パトリシアの時は勝手になってくれたけど、その感覚というか兆候はまったくない」
「それは……残念です。シリル様の紙分身、武器を持てたらもっとお強くなれると思ったのに」
「そうだよな。ただ紙分身として使うんじゃなくて、なんか合わせ技で――」
そう言いかけて、俺は固まった。
「シリル様?」
『うししししし、その顔は何か思いついた顔なのです』
「……」
ちびくりすの言うとおりだ。俺の頭にある光景がひらめいた。
その光景はシンプルなもので、ひらめいた瞬間何をどうしたらどうなるのか、すぐに分かるものだった。
俺は自分の紙人形と向き合った。
向き合って、両手を突き出す。
紙人形に向かって、炎の玉を放った。
九指炎弾――炎の玉を紙人形に放った。
紙人形は避けることなく、そのまま当って、炎上した。
傍から見て思いっきり炎上していたが。
「こ、これは……燃えている? 燃えて……ない?」
驚くジャンヌ。
そう、紙人形は燃えているのかどうかよく分からない状況だ。
炎は維持されている、ぱっと見、紙人形は炎上している。
しかしあの程度の紙に、これほどの火力。
本来なら、数秒も経てば完全に燃え尽きるほどのものだ。
しかし、炎の中で紙人形はいつまで経ってもまったく同じ姿で、燃え尽きるどころか「燃えている」ようにさえ見えない。
ジャンヌがどっちなのかと迷うのも無理からぬことだ。
「燃えてないな」
「そ、それって……?」
「俺と――あとクリスもか。それと同じように、炎が効かない性質ってわけだ」
「あっ、なるほど!」
ジャンヌはハッとした。
その能力の事は知っているから、言われればすぐに納得した。
俺は更に紙人形を操作した。
炎上し、全身に炎を纏っているが、さっきとまったく同じ感覚で操作できた。
踊ったり飛び跳ねたりして、自由自在に動かせた。
「……クリス、ちょっとテストに付き合ってくれ」
『うししししし、どんとこいなのです』
なにが? とは聞かないちびくりす。
俺がやろうとしていること、思っていることはお見通しなんだろうなと思った。
それなら話が早い、と。
俺は更に紙人形を追加して数を倍にして、追加分にも炎弾を放って炎上させた。
そして、一斉に飛び出させた。
炎の軍勢が、一斉にちびくりすに襲いかかった。
ちびくりすはその攻撃を避けた。
飛びかかる炎の紙人形をまるで炎弾にするかのように避けた。
人形は避けられても、ちびくりすを追いかけた。
一体が当たった。
ちびくりすが炎上した。
炎上したちびくりすは足を止めた。
足を止めたが、にやりと笑った。
ちびくりすも「クリス」なので、炎は効かない。
その証拠に、全身炎上しているがむしろ丁度いい湯加減の風呂に入っているかのような表情さえ浮かべている。
それでも足を止めて――にやりと笑いながら。
俺がやろうとしていることを理解しているから、「一発当たったら足が止まった」を演じてくれた。
その、足が止まったちびくりすに、残った炎人形が一斉に飛びついた。
そして――大炎上。
爆発かと思うほどの大炎上が起きた。
「きゃっ!」
業炎に驚くジャンヌ、彼女を背中に隠して庇う。
「あっ……ありがとうございます……」
「悪い、大丈夫か?」
「大丈夫です……ありがとうございます……」
庇われたせいか、ジャンヌは嬉しそうな、ホッとしたような表情を浮かべた。
俺は「ん」と頷いて、ちびくりすを見る。
炎上した後、紙人形が次々と力を失い地面に落ちる。
そしてちびくりすが炎上してた炎も消えていった。
『うししししし、上手くいったですね』
「ああ、撃ったら当るのを祈る弾じゃなくて、撃った後『俺の意思』で追尾できる炎弾」
『上手く組み合わせたです。さすが心友なのです』
ちびくりすに褒められたが、俺もこの組み合わせはよく思いついた、とその有用性に満足し、密かに自画自賛するのだった。




