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ソーイングスキルで目指せ魔王様~その魔物、俺たちのハンドメイド~  作者: あーちゃんママ
第10章 アーステア大陸
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アナリーゼの苛立ち

アナリーゼ視点

「冗談じゃないわ!!」


ウォルトア大陸の最古の王国ベニチェア。

豪華な部屋でアナリーゼは側近たちに喚いていた。


原因となったのはユグドラシルに上がったあの動画。


『そうか生きて・・・いや、洗脳?!従兄弟って!それ子供じゃないか!

なんでアナリーゼみたいなおばさんに!!

アーステア大陸に轟く無能がよくここまで引っ掻き回したよな、まったく!』


(誰が無能なおばさんよ!しかも女王もオリビア姫も生きてるですって?!死ねばいいのに!無能は私じゃないわ!私の命令通りに結果が出せない側近(こいつ)らが悪いのよ!)


アナリーゼはディートハルトが現れた時から気に入らなかった。

テオドール、トライドット、ヨルヨンという見目麗しい取り巻き。

なのにディートハルト自身は女顔なだけの、非戦闘スキルで奴隷。

特別かと思えば、糸作成とソーイングというどこにでもいる存在。


気に食わなくて少し嫌がらせをしたが、『結婚してないの?その歳で?お仕事が恋人なのね!ぷふー!』という幻聴を叩き込まれ、それ以降明確な殺意を向けている。



顔を上げ、再び側近を睨みつける。

「もっと呪いスキルを飛ばしなさい」

「しかし解呪のアイテムを装備されていたらいくらやっても・・・」

「はぁ?なに口答えしてるの?」

バシッとアナリーゼの放った水が側近の顔にまとわりつく。


「・・・っが!」

ガボガボと水の中で溺れる側近に興味を示さず、アナリーゼは紅茶のカップを口に運ぶ。

「何で私の周りには無能な人間しかいなのいかしら。そうは思わない?プリメラ」

「・・・っ」


プリメラと呼ばれた女性がビクッと肩を揺らした。


「せっかく私のお姉様を悪役にしてあなたの立場を磐石にしてあげたって言うのに、その恩を仇で返すなんて思わなかったわ」

「わ、私はそんなこと望んで・・・」

ふるふると首を振ると、薄いピンクの髪が揺れる。

「黙りなさい、この役立たず」


アナリーゼの2つ上の姉。

学園でトップの成績を収め、プリメラは常に2位だった。

『私が知恵を貸してさし上げますわ』

そんな時プリメラの前に現れたのはアナリーゼだった。

・・・アナリーゼが優秀な姉を家から追い出したいだけだとプリメラは頭のどこかでわかっていた。

しかし、アナリーゼと同じ美人で、学力も家の格も全てが負けているプリメラは追い詰められていた。

『・・・地味な私には学力しかないの・・・だから・・・』

1つくらい、勝てるものが欲しい。

プリメラはアナリーゼに言われるまま洗脳スキルで周りの人たちを操った。


『成績が良いのは不正があったらしい』

これでいい、これだけで、プリメラはトップになれる。

目的を果たしたと思った。


『性悪な悪女め!君との婚約は破棄させてもらう!』

だがアナリーゼは姉の結婚話を潰し、罪をでっち上げ国外に追放してしまった。


『私も同罪?まさか。あなたがやったのよ。バレたらあなたの家族も巻き込まれるわね』

アナリーゼに罪を説いても、証拠は全てプリメラが姉を国外に追いやったと言っている。


悪役令嬢の一件はプリメラの弱みとなり、それ以来アナリーゼの側近として悪事に関わらされてきた。



アナリーゼを苛つかせているのはユグドラシルの動画だけではない。


「カタラーゼ国からは敗戦の手続きに向かった要人を死なせた責任を取れですって?!誰が要人よ!知らないわ!ちゃんと護衛を付けないのが悪いのよ」

ベニチェア王国の隣国カタラーゼ。

あの国の技術力が欲しくて、技術者を引き込むよう働きかけていた。

だが成果はでなかった。


もしカタラーゼ国の技術者が労働力を搾取されるような環境にあれば、アナリーゼの思惑通りにいったかもしれない。

しかし結果として誰1人引き込むことはできなかった。


『技術者は宝だ。無用な軋轢を産む勧誘は容認できない』

どれだけカタラーゼ国の外交官が遠回しに『くたばれ』と言ってもアナリーゼは聞き入れなかった。


それでもアナリーゼはどうしても隣国の技術者が欲しかった。

カタラーゼ国内で諜報活動を行い、非難されようと言い訳に言い訳を重ね・・・技術者への干渉は留まることは無かった。


事態はエスカレートし、家族を人質に取られた技術者が自殺する事件をきっかけに戦争が起きた。


(わざわざ自殺を見せつけて!やり方が陰険なのよ!何が『技術を高めてくれた祖国を裏切れない』よ!そのせいで家族ごと死ぬなんて馬鹿じゃないの!)


アナリーゼは戦争の発端となった自身の責任すら気付かなかった。

戦争になったのなら、勝って技術者を手に入れれば良いと思っていた。


だが争いの女神はカタラーゼ国を勝利に導いた。


『技術者たちへの謝罪と賠償を。それが済んだら、二度と関わるな』


(何が二度と関わるな。よ!バカにして!全部戦場で死んだ無能な王が悪いのよ!だから王族が責任を取るべきだわ!)


王族への苛立ちと民衆に敗戦がバレることの恐れから『敵国の姫を嫁に貰うようなものだな』という嫌味を曲解し、オリビア姫を差し出すよう働きかけていた。


だがそこにテオドールという王家の古い血筋が現れた。

勇者アリスの血を引くと思われる、ノーブル・ロットの名をもつ存在。


(何としてもこの国に引き止めないと!オリビア姫と結婚させて、邪魔な娘をオリビア姫の代わりにカタラーゼ国にやって・・・いずれオリビア姫を始末して、私がその椅子に座るのよ)


アナリーゼの血筋は王家の分家であった。

王位を継承できるのは王家の血を引く金髪の者のみ。

アナリーゼは何故か薄い金髪に生まれてしまい、本来なら王位継承権どころか家の後継者にも選ばれるはずがなかった。


だがテオドールが王となれば、王妃は金髪である必要はない。


(だと言うのに、ディートハルトめ!あいつが凶暴化するなんて知らないわよ!何がロンダルキアで待つよ!そのせいで男手が足りなくなったじゃない!)


『勇者になるので探さないでください』という離婚届けが机に残される事案が何件も発生している。

かつては勇者候補として集められた冒険者の末裔である男たちは、女尊男卑が浸透したこの国から逃げ出していた。


(勇者は他国から集めればいいのに!何で私の労働力を奪うのよ!あれは絶対洗脳スキルだわ。でもスキルは糸作成とソーイングってゴミだけのはず・・・)


「・・・もしかしてあいつ、魔石持ちの人間かしら」


5、6年前に表沙汰になった犯罪組織による人体実験。

魔石を人体に定着させ魔力を増幅させるという途方もない実験で、明るみになった実験場は失敗作(死体)しか見つからなかった。


4年前、その成功体がメラニア大陸のミッドガル国を襲った。

理由は定かではないが、戦争中だろうが紛争地だろうが物資を届けるミッドガル国の方針そのものが気に入らなかったと言われている。


魔石を心臓に埋め込んだ、高い魔力を誇る人間兵器による襲撃。

戦わない教育をさせられていたミッドガル国はすぐに潰されると思われた。


だが、9歳の異端な才能が戦場を蹂躙した。


(何が世界最強のスキル持ちよ。サイコ騎士のせいで国内の商業ギルドを取り込み損ねるし、余計なことをしてくれたわ。ミッドガル国が潰れれば、後ろ盾のなくなった商業ギルドの財産は全て私の物だったのに!)


魔石が出るダンジョンを有するベニチェア王国は商業ギルドによる繁栄の恩恵を受けていた。

ベニチェア王国で積み上げられた財産は、アナリーゼにとって自分の物である感覚だった。




ディートハルトがボーンドラゴンで逃げたその頃。

アナリーゼの側近たちの調査により、4年前にサイコ騎士から逃れた魔石持ちの人間たちがベラルーラ国へ亡命していたことが判明した。


(ベラルーラ国といえばあのディートハルトの祖国を侵攻した国。きっとあの魔王もどきを殺す手伝いをしてるれるわ!)


ユグドラシルで魔王討伐を煽り、ベラルーラ国に魔石持ちの人間をベニチェア王国に寄越すように伝達した。


しかし・・・


(もう残ってないって何?!4年前のアペリティフ侵攻で全滅してたって何よ!全然使えないじゃない!むしろアペリティフを抑えるためにベラルーラ国に戦力を送れですって?!こっちだってカタラーゼ国との戦争でもう戦力なんて残ってないわよ!)


お互いに、お互いの戦力を当てにしてユグドラシルで啖呵を切っていた。


そのため戦力が得られないと知ると『あの領主を抑えられる戦力が見込めない以上、この話は終わりだ』とベラルーラ国は掌を返してしまった。


(役立たずの無能め。だいたい『フェンタークといえど村の子だと思った。領主の子なら話が違う』って何よ!『領主にだけは目をつけられたくない』ですって?!あの奴隷のどこに価値があるの!領主が要らないから捨てたに決まってるじゃない!)



ユグドラシルには『首狩り』だけでなく『西の魔女』もディートハルト側に付いたと動画が上がっていた。


魔王に貴族と経済力の後ろ盾を与えてしまった。


ここまでディートハルトがやり手だとはアナリーゼは想像すらしていなかった。

むしろメルリオーネが何か行動を起こすだろうと積極的に排除し、対立する力を削ごうと躍起になっていた。

だと言うのに、メルリオーネは女王とオリビア姫を連れ出して以降動きはない。

ユグドラシルには何も上がってないのだ。


(女王たちが生きているならこちらに文句のひとつでも言うはず・・・きっとレックを持ってなかったのね。貧乏なエルフめ。この程度の反乱すら予想してなかったんだわ!ご意見番なんてちやほやされながら実際は何も動けないなんて無様!胸にばかり栄養が行って頭が悪いせいね!)


水魔法で戦うメルリオーネ。

その部下は地味な男1人だった。


脅威でも何でもなかった。

ふんっと駅で見たあの慌てた顔を思い出し、少しだけ気分が落ち着いた。



(それに、こちらには”王”がいるもの。女王たちが生きてる証拠が上げられたって、もう私には効かないわ!何かあれば不敬罪と反逆罪で追い詰めてやる!)


クスクスとこれからのことを考え、壁に立っていた8歳の可愛らしい王を呼ぶ。

「ほら、こっちにいらっしゃい」

金色の髪と青い瞳。

これを受け継いだ子さえ産めば私の立場は揺るがない。

するりと上着を剥ぎ取れば、アナリーゼが昨夜付けた噛み跡が痛々しく赤みを帯びていた。


「この子も顔は良いんだけどね・・・テオドール様を見たあとだと物足りないわ。・・・こっちもね」

「・・・っ」

床に座り込むラザニールの股間を足で踏み付ける。

グリグリと素足で押さえられラザニールは小さく呻くが、洗脳スキルで喋る事叫ぶ事もできずにいた。

痛みと屈辱からボロボロと大粒の涙が溢れ出る。


(あぁ、いい顔だわ。・・・いずれ、あの女顔のディートハルトも泣き叫ばせてやるわ。そして洗脳スキルでテオドール様に愛されるのはこの私!)


「ふふ、王位もテオドール様も空間作成のアイテムも・・・全部私のもの!ふふ・・・あはは!」


狂ったように笑うアナリーゼを止めるものは、この城にはいなかった。



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